謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?
「……ええと、キョウ? こっちから入らないの?」
正面エントランスをスルーしてわざわざ裏口へ回ろうとする彼へ声をかけると、「こっちからしかいけないから」との返事。
どういうことかと尋ねて、それでようやく、今夜大量発生した謎のうちの1つが解けた。
どうして最上階で降りたはずなのに、着いた先の内装がキョウの部屋とは全く違うものだったのか。
もちろん、家具の入れ替えなんかじゃない。
最初から違う部屋だったのだ。
実は、このマンションは確かに7階建てではあるけれど、7階にあるキョウの部屋へは、裏手にある専用のエレベーターでしか行けないそうだ。
正面エントランスにある一般用エレベーターは6階までしか繋がっておらず、つまりあのキョウのお友達を乗せて一番上まで移動したように見えたエレベーターは、実際は6階で停まっていた、というわけ。
「びっくりしただろ。行ってみたら全然違う部屋で」
「うん、びっくりした。なんか事務所みたいな場所だったね?」
直通エレベーターに乗り込みながら、パーテーションやキャビネットを思い出して言うと、「実際事務所として使ってたからな、昔は」と懐かしそうに微笑むキョウ。
「華が――あの相馬藍の格好してたヤツ、高橋華子って言うんだけど――会社を立ち上げるからオフィス兼工房として使える場所を探してくれって言ってきて、10年くらい前に貸したんだ。まぁ、今はもう会社が大きくなったから移転して、使ってないけどな」
自分と篤史も巻き込まれて大変だった、と愚痴っぽく語りつつも、そのカオは楽しそうだ。
すごいな。
キョウの元クラスメイトってことは、あたしとも同い年ってことでしょ?
そんな若さで会社を興そう、だなんて――あれ? オフィス兼工房?
「あ、もしかして、それがトワズ!?」
「正解」
やっぱり!
そういえば、いつだったかネットの記事で読んだことある。
トワズの女性社長は、学生時代に起業した天才ジュエラーだって。
しかも彼女、確か社長令嬢だったはず。
恵まれた環境を捨ててゼロから始めたんだとか書いてあって、カッコいいなぁと思った記憶が……
――幸い、主人の仕事関係で親しくさせていただいている方のお嬢様と、以前からいずれは、というお話はありましてね。
バクンッと心臓が不穏に鳴る。
まさか、キョウの婚約者って……