謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?
「やっぱり、止めとく。話ならここで聞くから」
7階でエレベーターを降り、玄関ドアを開錠しようとする後ろ姿に思い切って声をかけた。
「え?」
「こういうの、よくないよ。恋人でもない女、こんな夜中に部屋に上げるとか。婚約者が知ったらいい気はしないし、絶対誤解すると思う」
嫉妬なのか虚しさなのか、いろんなモヤモヤを強張った笑顔で覆い隠して指摘すると、相手は怪訝そうに眉間を寄せる。
「婚約者? なんのことだ」
「もう隠さなくていいわよ。キョウの本名は、霧島京吾。ご両親は、霧島建設の社長と女優の花坂雫。でしょ?」
「っ!」
あたしが知ってるとは思わなかったんだろう。
ポーカーフェイスが崩れて動揺を見せる彼から視線を外し、懸命に口を動かした。
「そりゃ、そんな名家の御曹司なら、許嫁くらい当然いるわよね。でもさすがに、結婚したらもう遊びは止めた方がいいわよ? あたしだけじゃなく、他のガールフレンドたちとの関係も終わりにした方がいいと思う。奥さんだけを、愛してあげて」
「ちょっと待て翠」
「大丈夫、あたしならこれ以上付きまとったりしないし、キョウとの関係だって誰にも言ったりしないって約束するから安心して」
「翠っ」
「お金は、ちょっと待ってもらうかもだけど、藍と一緒に少しずつ返していくから、だからもう――」
「待てって言ってるだろ!」
あたしの言葉を遮る乱暴な口調。
続いて伸びてきたのは強引な手で。
そのままあたしは彼の腕の中へ、引きずり込むように抱きしめられた。
「人の話を聞けっ」
「キョウ! ちょ、ここ外っ……」
反射的に離れようとするあたしの後頭部と背中とに大きな手が回され、拘束される。
「確かにオレは霧島京吾だけどな、婚約者なんていない。一体どこをどう勘違いすればそんな話になるんだか」
責めるように言われて、こっちもムッ。
「だって、インタビューで……」
「あ? インタビュー?」