謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?
不機嫌そうな声音に怯みそうになりつつも、なんとか自分を鼓舞して花坂雫のインタビュー内容を訥々と説明した。
すると。
「あー……なるほど。そういうことか」
肯定する台詞が聞こえて、ほらね、と脱力した。
「やっぱり婚約者がいるんでしょ。もう放し――」
「彼女が出てたドラマの内容、知ってるか?」
え? ドラマの内容?
唐突な話題転換に目を点にして、一応こくりと頷く。
「もちろん知ってるわ。今年一番の話題作だもの」
冤罪で逮捕されそうになった刑事が、自分で犯人を捕まえるやつよね。
「主人公の年齢は?」
「ええと、30代半ば、くらいじゃなかった?」
起用された俳優さんも、同じ年くらいだったはず……。
「その主人公と比較して話題に出たのなら、それはオレじゃない。兄貴の話だ」
「え……お兄さんっ?」
そ、そういえばキョウは3兄弟の真ん中だったっけ。
聞けば、お兄様は今年34歳になるのだという。
確かに、ドラマの主人公と同じくらいだ。
「じゃあ、許嫁がいるのは、お兄さん?」
「噂は聞いてるし、そうだろうな」
「な、なんだ、そうだったの」
とんだ早とちりだ、と羞恥心で顔が火照る――と同時に抑えようもなく胸の奥へ湧き上がるのは、喜び。
彼がまだ、誰か一人の女性のものになったわけじゃないっていう、安堵。
けれど一瞬の後には、それも掻き消えてしまう。
だっていずれにせよ彼との関係は今夜終わる。
終わりにする。
それはもう、決めたことだったから。