謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?

「あの、それはもうわかった。わかった、けど」

視線を逸らし、拘束から逃れようと相手の胸板を押し返しつつ言う。

「けど?」

しっかりしろ、あたし。
ここで断らなければずるずる流されちゃう。

「キっキョウとの関係は、やっぱりこれで終わりにしたいの。お金は、さっきも言ったように藍と一緒に少しずつ返していくから」

「…………」

その場の空気がズンと重たいものに変化したような気がしたが、必死に気のせいだと言い聞かせる。
たかだかセフレの一人がどうなろうと、彼にとっては些末なことに違いないもの。

あたしの心の声を裏付けるように、しばらく続いた沈黙の後、「そうか」と彼は腕を解いた。

「……わかった。終わりにしよう」

理由も聞かれずあっさり解放されたことに、お門違いな寂しさを感じてしまう自分を叱咤して、1歩後ずさる。

「いろいろ助けてくれて本当に感謝してる。ありが――」
「その代わり」

「そ、その代わり?」

え、何? 
首を傾げるあたしを見下ろしていたのは、何かを吹っ切ったような清々しい眼差しだった。

「これからもオレはガンガン翠のこと口説いていくし、チャンスがあればつけこんで、押し倒す。それだけは許してくれ」

……は?
何言ってるのよ、おお押し倒す!?

「そんなこと許すはずないでしょ!?」
「もちろん、翠が嫌なら無理強いはしない。安心しろ、オレは紳士だぞ?」

そういうことじゃないんだってば!
嫌、じゃないから……絶対流されちゃう自分が怖いのよっ。

「ダメ、ダメなの。キョウとはもう会えない、会いたくないっ」

今度こそはっきりと、凍り付く空気を感じた。
傷ついたように目を見開く、彼のカオが見える。


「あたしだって普通の女子なのよ?」

それでも、無我夢中の口は止まらなかった。


「好きな人には自分だけを見て欲しいって思うし、自分だけを愛して欲しいって思う。大勢の中の一人なんて、もう耐えられない……っ」


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