謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?
「…………」
はぁ、はぁ……
肩で息をするあたしの耳に聞こえるのは、自分の荒い呼吸のみ。
あー今更だけど、ここ外だった。
1フロア1戸だからほぼプライベート空間とはいえ、下の階に聞こえてたりしたら――と、そんなことを取り留めもなく考えた時だった。
「えーと、今さ」
若干浮ついた調子のテノールが聞こえた。
「オレ、さらっと告白された? 好きな人、って言ったよな?」
「……へ?」
え、こく、はく……好き、……?
あたし、何やらかした……?
次の瞬間自分の発言の詳細を思い出してしまい、どっかんと火を噴く勢いで顔が真っ赤になるのがわかった。
「あ、あのっや、ええと……それはっ……違、わないけどそのっ……」
しどろもどろのあたしとは対照的に、キョウはニヤリと余裕の笑みをその唇へ浮かべて、「違わないんだ?」と距離を詰めてくる。
「翠はオレが好き、ってことでいいか?」
「や、待っ待って、こっち来ないで、止まって!」
「断る」
1歩2歩と下がっているうちについに背中がドアにつき、逃げ場所を失ったあたしの顔の横にキョウが手をつく。
「翠? 言えよ、オレが好きだって。本当は終わりにしたくないって」
顎を掬われ、色気駄々洩れの眼差しに誘うように見下ろされて。
追い詰められたあたしの視界は、涙のヴェールで覆われていく。