謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?
それにしてもすごすぎるでしょ。
美術方面が得意だっていうのは知ってたけど……まさかの天才か?
息を呑んで圧倒されていたらキョウがやってくる。
そして、座り込むあたしの前で膝をついた。
「前に言ったよな。昔から諦めるのが得意だったって」
「え? あ……うん覚えてる」
なんのことを言っているのかは、すぐにわかった。
前にここに来た時のことよね。
――生まれてこの方、欲しいと思ったものが手に入ったことなんて一度もない。
――どうせ欲しいものは手に入らない。だったら最初から、何も望まない方が楽だ……
「生まれて初めてだったよ。諦めたくないって、諦めちゃいけないって思ったのは。もがいて足掻いて、どんなことをしてもこの人を自分だけのものにしたいって。オレをこんな気持ちにさせたのは翠だけだ」
おもむろに、キョウがあたしの左手を取って両手で握り締めた。
「必ず近いうちに最高の指輪を贈るから、その時はどうか、ここにはめてほしい」
長い睫毛を伏せて薬指へ恭しく口づけられて、全身が震えた。
だってそれって……プロポーズ、よね?
嘘でしょ、だって結婚なんて全然興味なさそうっていうか、ずっと遊んでたい派かと思ってた。
ニートを選んだのも、自分の時間を制限されず、自由に気楽に過ごしたいからでしょ?
その彼が、結婚……?
狼狽えるあたしの様子からすべてを察したのか、低い笑い声が響く。
「そうだな。翠と出会わなければ、一生結婚はしなかったかも。ただ、翠を手放したくないって思った時、それ以外の選択肢は見当たらなかった。オレが本気だってこと、これで伝わったか?」
注がれる眼差しはヒリヒリと痛いくらい熱く強く、あたしはたまらず視線を周囲へと彷徨わせた。
視界に入るのは、まるで海のように床を覆う膨大な指輪のデザイン画。
「…………」
こんなにたくさん、考えて考えて、考え抜いてくれたんだ。
時間をかけて意味を調べて、あたしに似合う最高の指輪をって。
あたしを想って、あたしだけのために。
プロポーズはもちろん嬉しかったけれど、そのことの方により感動しちゃって、もう胸がいっぱいだ。