謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?
11. キョウside それは運命の出会いだった。



パンッ――

軽く小気味いい破裂音が耳元で鳴り、続けて頬が熱くなった。
あーさすがにクリーンヒットされると、地味に痛い。

「わたしがいるのに他の女と寝るとか、サイテーっ!」

「……君一人って、誓った覚えはないけど?」

自分の頬に手をやって不愛想に言うと、相手の女はますます両目を吊り上げた。

「もういいわよっ男のくせにニートなんて、こっちから願い下げ! ちょっとカオがいいから相手してあげたのに、調子に乗んないでよね!」

ジェンダーバイアス、職業差別、外見至上主義(ルッキズム)……と、いくつかのワードが浮かんだが、それを口にする前に、彼女はぐるんと踵を返し、猛然と去っていった。

往来にただ一人残されたオレは、周囲の気まずそうな視線を浴びつつもホッと安堵の息を吐く。

束縛が激しい子だったから、もう切ろうと思っていたところだったのだ。
泥沼の展開になるよりは、頬を差し出して終わるなら、その方がいい。
平和だ。

「次は、カオだけで男選ぶなよー」

小さくなっていく後ろ姿につぶやいて、言っても無駄かと、苦笑する。
ああいうタイプは懲りないからな。
次もまた、同じことを繰り返すんだろう。

そしてオレもまた、“たった一人”を求めて、虚しいセックスを繰り返す――


「しかし……ってぇな」

伸ばした爪が当たったようで、ヒリヒリする。

どこかで氷でももらって冷やそうかと、オレは目についた喫茶店へ足を向けた。

< 187 / 246 >

この作品をシェア

pagetop