謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?
人は、自分が描いた“こうであってほしい”という期待が裏切られると、失望する。
期待が大きければ大きいほど、叶えられなかった時の喪失感は大きくなる。
オレの子ども時代は、それの繰り返しだった。
期待して、失望して、今度こそはと期待して……
今振り返れば、両親としては最善の道を選んだつもりだったのだろう。
病弱なオレに一人海外で療養生活を送らせ、同時に周囲の過度な注目から遠ざける、というのは。
社長の父と女優の母、という特殊な家庭環境では、普通に暮らすことすら簡単なことではなかったから。
でも幼いオレには、そこまで理解できなかった。
兄も弟も元気に日本で暮らしているのに、どうして自分だけが、と悲しくてたまらなかった。
勉強を頑張れば、風邪をひかなければ、もっと身長が伸びれば、きっと両親は迎えに来てくれると、無意味な期待を繰り返し、失望を重ねた。
そしていつの頃からか、オレは期待するのを止めた。
求めるのを止めた。
期待しなければ、夢など見なければ、裏切られて苦しむこともない。
心の平穏は保たれる。
笑顔をカオに貼り付けただけの、まるでロボットのような可愛げのない子どもの出来上がりだ。
やがて、16の時に帰国が決定。とはいえ、馴染んだ思考回路はなかなか変えることができず、歓迎してくれた家族にもそっけない対応しかできなかった。
編入したセレブ御用達の学校ではそれなりに友人もできたが、そのほとんどがオレの外見や実家目当てであることが見えてしまう。
早々にオレは、ここでもやはり何も期待しない方がいいのだという思いを強くした。
来るもの拒まず、去る者追わず。
何も求めず、執着しない。
そうすればずっと心は穏やかで、波立ったり乱されたりすることもない。
このままずっと一人で、そんな風に気楽に生きて行くつもりだった。
ただ、もちろんそのためには資金が必要だ。
親に養ってもらう、というのはすなわち、親が金をだしてくれることを期待する、ということだろう?
それは、オレの中ではNG。
ならば、自分で稼がねばならない。
幸い、オレにも兄や弟ほどじゃないが、それなりに素質はあったようで、積極的に投資を学んで自己資産形成に努めた結果、大学在学中にいわゆるFIRE(Financial Independence, Retire Early――インターン程度しかやってないから、早期退職というのは当てはまらないかもしれないが)を達成することができた。