謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?
その後は、実家を出て一人暮らしを開始。
株やFXで資産を運用しながら、気ままなニート生活を楽しんだ。
やりたいこともない。
成し遂げたいこともない。
そんな怠惰なニートに寄ってくるのは、オレの顔が好みだという、ルッキストのチャラい女ばかり。
でもそれでよかった。
金を持ってることは内緒にしてたから、彼女たちにとってオレはただのニート。
さすがに結婚を迫ろうというツワモノは現れず、あと腐れのないセックスは楽だった。
ただ――……一度も考えなかったか、と聞かれたら、嘘になるだろう。
もし、外見や職業に関係なく、一緒にいたいと言ってくれる誰かが現れたなら。丸ごとのオレを、そのまま受け止めてくれる、誰かが現れたなら。その時は――……
「だから、期待すんなって」
苦く笑って、オレは店員から受け取った冷たいおしぼりを頬へ押し当てた。
「あー……気持ちいー……」
後で鏡を見てみなければ。
アトがついていなければいいが。
そんなことを考えつつ辺りを見渡すと、目に入るのは、本棚本棚、本棚ばかり。
それぞれぎっしりと本が並んでいる。
客は自由にそれを読んでいいらしい。
マンガは置いてなさそうだから、マンガ喫茶じゃないな。
ブックカフェ、とかいうところだろうか。
レトロなインテリアも、落ち着いた客層も、悪くない。
適当に選んだにしてはいい店だったな、と幸運を喜び、オレも何か読んでみようかと手近な本棚へ視線を向けたところで、斜め前の席に座るその女性に気づいた。
まず目を引かれたのは、雑誌へ視線を落とすその横顔の美しさ。
そして色っぽいうなじを際立たせる短めの髪、ジュエリーが映えそうな白く滑らかなデコルテ――
すべてがオレの好みど真ん中で、思わず見惚れていると、
「あ、トワズの広告ですか? わぁ、新作も素敵」
顔馴染みなんだろうか、テーブルへコーヒーカップを置いた店員が、彼女の広げた雑誌を覗き込んで親し気に話しかける。
「でしょう? 特にこの花びらモチーフのネックレス、気に入ってるんだ」
周りに気を使ってか小声の会話ではあったが、それほど距離が離れていなかったため簡単に聞き取れた。
「あーわかりますっ大人カワイイ感じで。オフィスでも浮かなさそう」
「なんだかこれ見てると落ち着くって言うか、幸せな気持ちになれるのよね」
「けど、結構イイお値段しますよねえ」
トワズの新作、花びらモチーフのネックレス……
2つのワードですぐにわかった。
それが、自分のデザインしたものだと。