謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?
あー……マズい。
勢いよく乗り込んだはいいが、何も策はないんだよな。
どうしようか……
「ごめんな、こっちの方が面白そうだから。君たちは行っていいよ」
とりあえず、まとわりついてくる鬱陶しい女の子たちを遠ざけ、ソファに座る。
そんなオレを、ぽかんとした顔で見つめる翠。
ようやくその視界に映ることができた喜びをひた隠して平静を装うのは、結構ツラかった。
「お客さん、ここはVIPルームでね。選ばれたごく少数のゲストしか――」
「知ってる。オレだって、今まで隣で飲んでたんだから。そしたら、会話が聞こえてきちゃってさ」
余裕ぶって言い返しながら、まるで金持ちのドラ息子みたいだなと心の中で独り言ちた刹那、妙案が閃いた。
かなり強引……かもしれないが、上手くいけば、彼女を借金地獄から救い、さらにあのクズ男と別れさせてやることができる。
よし、これでいこう。
「三千万。用意できれば、彼女は解放される。そういう話でよかった?」
慎重に考えながら、偶然話が聞こえてしまった、というフリをして、「助けてほしい?」と軽い調子で彼女に話しかけた。
「ほ、ほんとに、お金……貸していただけるんですか?」
「いや、貸さない」
「え? あの、それじゃ――」
「貸すんじゃない。オレが君に払うんだ、三千万。返す必要はない」
「え、え、っと……」
「もちろん相応の対価をもらう――君だ」
口にした瞬間、それが間違いなく自分の願望だと気づく。
とはいえ、その時はまだ本気で抱くつもりはなく、その提案は白井と別れさせるための布石にすぎなかった。
「あの、あたし、付き合ってる、人、が……」
案の定、困惑する彼女の細い指がネックレスをまさぐるのが見えた。
大事にしてくれているのは嬉しいが、今この瞬間彼女の脳裏に浮かんでいるのはあの男だろう。
腹立たしい気持ちを押さえに押さえ、言葉を続ける。
「あぁさっき電話してた彼? もちろん別れてもらう。誰かと女性を共有するのは好きじゃないんでね」
さぁ、彼女はどう答える?
返事によって、彼女がどれだけ白井に想いを寄せているかがわかる。
オレは、柄にもなく祈るような気持ちで彼女の返事を待った。
そして――
「わかりました……あなたの、ものに、なります。だから、助けてください」