謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?

やった! と歓喜に打ち震えるオレの耳に、「ちょっと待った!!」と無粋な声が届いた。黒沼だ。

「勝手に話を決めないでもらおうか。決めるのは俺だ。お兄さん、随分キレーな顔してるが、ここら辺じゃ見ないツラだな。歌舞伎町あたりの人間か? 俺は初対面のヤツを信用できない性質でね。まして金が絡む話には」

なるほど、ホストっぽく見えたのか。

「あんたとは取引しない。引っ込んでいてもらおう」

残念だったな。彼女が心を決めてくれたのなら、一切引くつもりはない。
引っ込むのはそっちの方だ。

幸い、黒沼に効きそうなコネはいくらでもある……と頭の中で何人かの顔を思い浮かべたところで、

「オーナーっ」と声がした。
和服姿のママが駆け寄ってくる。

「なんだ、今は取り込み中だ!」
「申し訳ありません。あの、でもこちらの方……」

耳打ちされた黒沼が顔を歪める。

「……なんだと、リュウのダチぃ?」

あぁそうか。
前来た時は、(りゅう)さん――兄貴の友人で、裏の世界にも精通している敏腕弁護士――と一緒だったな。
それをママは覚えていたらしい。

「……まぁいい。こっちは金さえ回収できりゃ文句はない」

結局、大したトラブルに発展することもなく、あっさりと黒沼は引き下がってくれた。

「よかった。交渉成立」

ソファから立ち上がって、彼女の前に立つ。

その手を取ってナイトよろしく甲に口づけたのは、カッコつけたかったからじゃない。
一時的とはいえ彼女を独占することが叶い、舞い上がって妙なことを口走らないか怖かったからだ。

そうしてオレたちの、奇妙なセフレ関係が始まった。

< 195 / 246 >

この作品をシェア

pagetop