謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?

その後も、週に1回程度、彼女を呼び出してはホテルで関係を持った。

もちろん彼女にとっては借金と引き換えの不本意な行為のはず。
オレとしても、抱くつもりはなかったのに抱いてしまった、という後ろめたさもあり、遅刻もドタキャンも大したことはないという風に受け入れた。
できるだけ彼女の負担にならないよう配慮するのは、オレの義務だと思ったから。

しかし次第に、それでは足らないと、不満に思う自分が顔を出す。
毎日会いたいし抱きたいし、許されるなら恋人みたいなデートもしてみたい。女性に対してこんな風に思うのは初めてで……

贈るあてなどないアクセサリーのデザイン画――オレとペアで使えるヤツ――を描きながら、自分の気持ちを持て余し、何度言い聞かせたことか。

これはただ、オレたちの身体の相性が最高だからだ。
だからもっと欲しいと思う気持ちが止められないのだ、と。

第一、彼女はオレとは全く違う世界に生きている女性だ。

広告デザイナーとして仕事に誇りをもって取り組み、コツコツと努力して経験と実績を積み重ねている彼女。

対するオレはと言えば、毎日目的もなくただ生きているニートだ。

彼女が、オレのような男を本気で恋愛対象だと見てくれるわけがない。
彼女にふさわしいのは、普通にスーツを着て、昼間の仕事を真面目にこなすような男……くそっ……どうしたんだろう、オレは。

今までそんなヤツを羨ましいと思ったことなんてなかったのに。
自分で選んだこの生き方に、一度も後悔なんてしなかったのに。

今になって、気持ちがこんなにざわつくなんて。


【ごめん、キョウ! ギリギリで記事が差し替えになっちゃって。少し遅れるかも。先にご飯食べててくれる?】

【ごめん! もう少し遅れそう! 8時過ぎるかも】

“新宿駅”とビルの壁面に書かれた緑色の文字を見上げて、オレはため息をついた。

今夜は無理か。
「もう帰るよ。また今度にしよう」とオレの方から言ってやるべきかも。

けど、先週も会えなかったからな。
ほんの少しでも会える可能性があるなら……

週末夜の混雑の中、スマホに目を落として自分の往生際の悪さを嗤う。
そこへ、はしゃいだ声が近づいてきた。


「ねぇねぇ、さっきから一人だよね。よかったら飲みに行かない?」

露出度の高い上下でコーディネートした女子がすり寄ってくる。
鬱陶しいな、これで何人目だろう。

「あたし、いい店知ってるんだぁ」

コピペしたように似通った台詞に吐き気を覚えつつ、冷ややかに一瞥する。

「彼女が誤解する。傍に寄らないでくれ」

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