謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?
自分の見た目によほどの自信があったのだろうか。
ムッと不機嫌そうに顔をしかめた女子は、「何よっずっと一人じゃないの! どうせフラれたのよ!」と捨て台詞を吐いて立ち去っていく。
フラれた……
そもそも付き合ってもいないのに、フラれるも何もない、はずなのに――不吉なワードは、思いがけないほど胸をえぐった。
もしかしたら、もう愛想をつかされてしまったんじゃないだろうか。
仕事で遅れるというのも、本当かどうか……なんて。そんなギリギリの精神状態だったから、彼女が駅前広場に現れた時には本気で膝から崩れ落ちそうになった。
「みーつけた」
彼女に抱き着くフリをして、自分の身体を支えなきゃならなかったほどだ。
「え、えと、キョウ、ちょっと離れて? なんか、めちゃくちゃ見られてる」
「んー? あぁ、ほんとだ。じゃあ……キスとかしとく?」
「はっ? ししししないわよっ」
軽口をたたきながら、その場で襲いたくなるのをやっとのことで自制する。
待て待て。あまりがっつくと呆れられるぞ。
どうせホテルに行けば彼女のすべてをたっぷり味わえる。
もう少しの辛抱だ。
なんとか自分に言い聞かせた計画を、しかし次の瞬間には断念せざるを得なかった。
間近に見つめた彼女のカオが、本当に疲れて見えたから。
無理もない。
オレと違って、こんな時間まで一生懸命仕事をしていたのだ。
この上オレのワガママに付き合わせて抱かせてくれなんて、そりゃ無茶ぶりだよな。
はぁ……仕方ない。
適当な言い訳で誤魔化して、今夜は解放してやろう。
「今夜手配してたホテル、ダブルブッキングで予約できてなかったんだ」
「だ、ダブルブッキング?」
「だから今日はここまで。わざわざ頑張って来てくれたのに、ごめんな。車で家まで送るから」
今夜はなにもしないと聞いて、彼女がガッカリしたように見えたのは……オレの気のせいだと思っていた。
だから一緒にラーメンを食べて、アパートまで送った後。
「もう少し一緒にいたい」と言われた時は自分の耳を疑い、そして――
「……頼むから煽るなよ」
ギリギリで耐えていた理性が、一気に雪崩を打った。
剥き出しになった本能が、欲しいものを手に入れろと暴れ出す。
オレはあっという間に彼女をドアの内側へ引きずり込んで、激しく唇を奪っていた。