謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?
これは……避けられてる?
え、嘘だろ。まさかだよな?
我慢できなくなったオレは半ば強引に約束を取り付け、彼女の部屋に押しかけた。
すると、出迎えてくれたのは浴衣姿の翠。
さらにはオレの浴衣まで用意されていて、びっくりしてしまった。
「オレ、の……?」
「そうよ。レンタルじゃないの。あたしからキョウへ、プレゼント」
得意げに微笑む翠。
モデル料代わりに、花火大会へ連れて行ってくれるらしい。
しばらく会えなかったのは、その計画を練っていたからだとか。若干疑問は残ったけれど、初めての浴衣、初めての花火大会、という魅力には抗えず、それ以上追及はしなかった。
実際、その日はオレの29年の人生の中でも一番楽しく、素晴らしい日になったのだから、文句を言ったら罰が当たる。
浴衣姿の翠は他の男から隠して閉じ込めてしまいたいほど色っぽくて綺麗だったし、たこ焼きやチョコバナナ、かき氷……初めて食べるそれらは、どんなミシュラングルメにも劣らないほど美味しく感じた。
こんなに心が沸き立ったのは、思いっきり笑ったのは、もしかしたら生まれて初めてかもしれない。
「オレ、ニート止めてたこ焼き屋になろうかな」
「あはは、いいわね」
「いや、冗談じゃなくて、本気だぞ?」
「いいわよー。あたしお客さん第一号になってあげる」
「うわ、ダメ出し厳しそー」
「当たり前じゃない。味には厳しいわよ?」
くるくると変わるその表情、弾ける笑顔に見惚れていたオレは、ふと気づく――あぁ、彼女がいるからだ、と。
彼女と一緒だから、楽しいし、嬉しいし、幸せなのだと。