謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?

そして、帰路。

「ほんっとに大したことないんだってば。全然歩けるし!」
「無理はしない方がいいだろ」
「じゃあタクシーで帰るから、それならいいでしょ?」
「こんなイベントの後に、タクシーが捕まると思うか?」
「アプリで探すからっ」
「同じことだろ」


オレは今まで、付き合ってきたどんな女性も自分の部屋に上げたことはないし、大体の場所すら教えたことはない。

高校時代、自宅住所を探り出されて、クラスメイトの女子に突撃されたことがあったからだ。幸い優秀な家政婦とセキュリティシステムのおかげで家の中までは侵入されなかったが、あれはトラウマものの悪夢だった。

翠と関係を持ち始めてからもそれは変わらず、愛し合うのはいつも自宅から遠く離れたホテル一択。

そんなオレなのに――靴擦れで足を止めた翠を、ホテルより断然近い自宅マンションへ連れていくことに迷いはなかった。

恋心を自覚するとこうも意識が変わるものかと苦笑いしつつ、室内へ彼女を残して、オレは買い物を口実に早々に部屋から出る。

もう数週間彼女を抱いていない。
ただでさえ欲求不満なところへ、楚々とした浴衣姿の禁欲的な美しさは眩暈がしそうなほどで――彼女が欲しいと身の内で暴れる欲望を、クールダウンさせる時間が必要だったからだ。

足を伸ばして、絆創膏や消毒薬、明日の朝食や翠のためのスキンケア用品なども買いそろえ、戻る頃にはなんとか落ち着きを取り戻していた、はず、だったのに。


「えぇと、いろいろありがとう。じゃ、あたしは帰るね」

絆創膏を貼り終えるなりあっさり腰を上げる彼女に、「は? 帰る? 泊っていくんじゃないのか?」と動揺が走った。

何も準備をしてこなかった、電車はまだあるし、とかなんとか、そんな言い訳はオレの耳を空気のようにすり抜けていく。

「だっ……だ、ダメ。今夜だけはごめん、許してっ……あたし、帰っ」

明確に拒絶され、テンションが底まで落ちた。

避けられてると感じたのは、やっぱり気のせいじゃなかったのか?
そういえば、それはあの撮影の後からだ。

もしかして、本気で篤史に惚れたんじゃないだろうな?


「ビクビク感じちゃって、ほんと可愛いな。素直に抱いてって言えば?」

「言わ、ないっ……お願い、放して……」

「……へえ。そんな蕩けたエロいカオしてるくせに、まだそんなこと言う? オレに抱かれるのは、そんなに嫌か?」

掴み切れない彼女の心に、焦る気持ちが暴走を始め――自分でももう訳がわからない。

「他のヤツになんか、渡さねぇよ」

気づいた時には、彼女の両手首を浴衣の帯を使ってベッドのヘッドボードに括りつけ、その嫋やかな身体へ獣のような欲望をぶつけていた。

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