謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?
「…………」
返事が、できなかった。
どうして彼女は、オレが求めていた言葉をいつもくれるんだろう?
しかも、あんなに暴走して傷つけてしまった夜の後で。
君は天使か? 天使なんだな?
たまらず抱きしめた彼女と一緒に、笑いながらベッドの上をゴロゴロ転がる。
「――ごめんね。キョウってイケメンだしセレブだし、ちょっと偏見持ってた。なんでも手に入って、叶わない願いなんてなくて、悩みなんか何もないお気楽人生でいいわねって」
「みんな同じことを考えるらしいな。実際は、そんなこともないんだけど。生まれてこの方、欲しいと思ったものが手に入ったことなんて一度もないし」
「い、一度も? それはさすがに冗談でしょ? 何でも買えるじゃない」
驚く彼女に、「……オレは、三兄弟の真ん中でさ。兄と弟がいるんだ」と、オレはごく自然に語りだしていた。
篤史や華にすら話したことのない、自分の中の闇を。
翠になら、言ってもいいかと……いや、違うな。
翠に聞いてほしかったんだ。
すべてをさらけ出して、オレという一人の男を知ってほしかった。
「わかってた、はずなんだけどな。どうせ欲しいものは手に入らない。だったら最初から、何も望まない方が楽だって。なのに……」
自分の想いを確かめるように、彼女の頬に、耳に、ゆっくりと触れていく。
「翠に会ってから、おかしいんだ。いろいろ、感情が、コントロールできない」
こんなの、ほぼほぼ告白だろうとは思ったが、言い直すのは止めておいた。
彼女が喜びそうなジュエリーと一緒に、後日カッコよく決めたかったから。
かくしてオレは、再び彼女をベッドへ沈め、たっぷりと愛し合った。
告白のタイミングを2回も逃したことを、後で後悔することになるとも知らずに。