謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?
想定外だったのは、その作戦のさなかに駅で偶然翠と出くわしたこと。
この件に巻き込みたくなくて、しばらく会わないようにしていたのに、よりによって今か、とかなり狼狽えた。
華――しかも藍の格好をしている――と一緒だったし、しかも白井母に尾行されている最中だったからだ。
以前キョウの姿で白井母に会ったことがあるため、ダテ眼鏡をかけたりして印象を変えていたが、翠はオレだと気づいたらしい。
あぁ最悪だ。
また絶対、変に誤解させた。
絶望が過ったが、ここで彼女に話しかけるのはもっと悪手だ。
断腸の思いで視線を外そうとして――
「相馬っどうしたんだよ突然。JRそっちじゃねえぞ?」
男の声に慄然とする。
誰だ、そいつは。
翠を呼び止めるスーツ姿の男が視界の端にチラリと掠め、思わず足を止めそうになったが。
「どうしたの?」
華の声で、ハッと我に返った。
「……いや、なんでもない」
しっかりしろ。
自分を叱咤してどうにか歩を進めたものの、頭の中は翠と男との2ショットで一杯。胸中は、乱れに乱れていた。
オレに他にも女がいるなら自分も、と思ったんだろうか?
いや、真面目な彼女のことだ。三千万の借りがあるうちは、滅多なことはしないだろう。
ただし、口説かれてる最中ってことはあるかもしれない。
あれほどの美人、そうそう周りの男が放っておくはずないよな。
嫉妬が渦巻いて、それを彼女にぶつけてしまうんじゃないかと怖くて。
なぜオレが藍と一緒にいたのか問う翠からのメッセージにも、ろくな返事が返せなかった。
すべてが片付くまでおそらくこの状態が続くのだろうと思うと、凄まじい焦燥感に襲われる。
そんな悶々とする日々を救ってくれたのは、描くことだった。