謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?

ネックレスやピアス、ブレスレット……翠を想い、翠に似合いそうな、喜びそうなアクセサリーのデザインを紙の上に思いっきり描き出す。
その時だけは、かろうじて心を穏やかに保つことができた。
芸術の創作活動に癒しを見出すアートセラピーという言葉があるが、似たような感覚なのかもしれない。

今までこんなに熱心に考えたことがあるだろうか、というくらい、オレは集中して作品を仕上げていった。


そんなある日のこと。
夢を見た。

翠が、寝ているオレを起こしに来る夢だ。


――お寝坊さん、朝ご飯できたよ。一緒に食べよう?

白く清涼な光に照らされた彼女が、柔らかな笑みを浮かべてオレを見下ろしている。その笑顔には一片の緊張や遠慮もない。
他愛もない日常の一コマのように、リラックスして見える。

――あはは、寝ぐせついてるよ。なんかカワイイ。

オレの髪に伸びた彼女の手に、キラリと光る指輪が見えた。

あぁ、そうか。オレは翠と……

あまりの多幸感に思わず泣きそうになったところで、目が覚めた。


「夢、か……」

未だ幸せの余韻が残っている気がする指で髪をかき上げ、上半身を起こす。

ぼんやりと考えたのは、夢の中で彼女がつけていた指輪のことだ。
彼女の白く細い指に、誂えたように似合っていて……

あれは、どんなフォルムだっただろう?
どんな石がついていた?

考え始めるともう止まらない。

ものすごい勢いでデザインを起こし始めた時には、すでにわかっていた。
この指輪は、エンゲージリングになるのだと。

< 213 / 246 >

この作品をシェア

pagetop