謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?

……なぁんてね。
結局、そんなに考えすぎなくてもよかったんだ。

その日の午後、いつも待ち合わせに使ってるカフェで顔を合わせた彼に別れてほしいと切り出すと、あっさり「わかった」って返って来たから。
あまりに素早い返事のせいで、「実は、」と続けようとしていた次の言葉は、飲み込まざるを得なかったほど。

「あー理由は言わなくていい。聞きたくない。面倒な話になりそうだから」

ご自慢の色白の塩顔を歪めて、向かい側から優が首を振る。

「なんかヤバいことになってんだろ。昨夜の電話で大体わかったよ。翠が金貸してくれなんて、よっぽどのことだもんな」

3年付き合った恋人が、お互いの両親にも紹介した相手が、困ってるってわかってるのに、何があったか聞いてもくれないんだ。
そういう人だったんだ。

冷たくなった指先を、膝の上できゅっと握り締めた。

「銀行員に金のトラブルって、最悪だし。昇進目の前って大事な時に、足元掬われるなんてまっぴらだからな。まぁ、金に困ってるみたいだから、婚約破棄の慰謝料請求したかったけど、それは止めておいてやるよ」

真正面から意味不明なドヤ顔されて、こっちはぽかんとしてしまう。

「は? あたしたち、婚約なんてしてないでしょ?」

「ほぼそんなようなものだろ。結婚したら仕事をどうするか、みたいな話もしてたわけだし」

「いやいや、タラレバの話、してただけじゃない。あたしプロポーズなんてされてないよ!?」

力を込めて言い返すと、相手はムッとして「ほんっと可愛くねぇヤツ」と吐き捨てる。

はぁ……いつもそうだ。
気分のアップダウンが激しくて、特に自分の意見を否定されるとすぐ不機嫌になってしまう。

こういうとこ、昔から全然変わってないのよね。

妙に冷めた気持ちで、あたしはそれ以上の反論を止めた。

< 22 / 246 >

この作品をシェア

pagetop