謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?
もうここは言葉よりも――と顔を近づける。
意図を汲んでくれた翠の瞼がゆっくりと降りていき……
「あ、ちょっと待って」
甘美な唇まであと数センチ、というところだったのに。
無粋な手にブロックされ、「え? 翠?」と思わず不満が漏れた。
「一つだけ約束して。もうご家族から援助してもらうのはナシにするって」
え? 援助?
「あー……ええと、それも実は――」
そう言えばまだ言ってなかったな。
黒沼に渡した三千万、あれが全部オレの金だって。
まぁ、藍が白井に搾取されてたっていう証拠を掴むために、黒沼には防犯カメラの映像を提供してもらわなきゃならなくて。
その交渉材料として、父さんに協力してもらったし(黒沼が新規出店を考えていたビルが、父さんの会社の持ち物だったのだ)、兄貴に間に入ってもらって契約を整えてもらったけど。
家を出てから援助を受けたのは、それくらいじゃないかな――と、そこのところを説明しようとすると。
「心配しなくても大丈夫。任せて、その分あたしが頑張って働くから」
え……オレの分まで働く?
普通は、結婚となったら、ニートは止めて働いてほしい、もしくは一緒に頑張って働こう、じゃないのか?
「オレは働かなくていいって?」
「んー……働かなくていい、って言っちゃうといろいろ違う気がするけど……」
ぽかんとするオレを見つめて、翠は優しく微笑んだ。
「無理やり好きでもないことをするくらいなら、キョウが専業主夫でも構わないわよ? もちろん専業主夫だって簡単じゃないけどね」