謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?

白井夫人とのゴタゴタから数日後、あたしはY県まで彼女に会いに行った。

――ほんとにごめんなさいっ! お姉ちゃぁあああん!!

あたしを見るなり、あの子ぎゃんぎゃん大泣きしたっけ。
それから、2人でたくさん話した。

優と飲みに行って、酔っぱらって過ちを犯してしまったこと。
関係を止めたいと思ったけど、隠し撮りされた動画で脅されて従うしかなかったこと。
渡すお金がなくなって、スマホを盗んで逃げたこと……

もちろんあたしに隠れて浮気してたわけだから、何も感じないわけじゃない。
ただ、藍も苦しんだんだ、ってことは十分伝わって来た。
彼女もまた、被害者なわけだし。

だから、もういい。
あたしがそう言うと、またまた大号泣してたな。


その後結局アパレルの仕事は辞めてしまった藍。
今はなんと、山寺での修業中に仲良くなった近所の農家さんで住み込みで働いている。

最初はちょっとぎこちなかったやりとりも、1か月以上経った今ではすっかり元通り。昔みたいに、他愛もないメッセージをよく送ってくれるようになった。
新しい仕事にも慣れて充実した毎日みたいで、姉としてはホッとしてる。

画面をスクロールすると、次の写真が現れた。
小麦色の肌をした黒髪ショートの女の子が映ってる。
藍の自撮りショットだ。

【髪、ちょっと伸びたでしょ。お姉ちゃんの結婚式までに、もうちょっと伸ばしたいなぁ】

東京から逃げる時にピンクは目立つからと髪を黒く染め、ついでにあたしより短く切ってしまったんだって。

【今の髪型も似合ってるよ】と返して。
結婚式かぁ、と肩を落とす。

ほんとにできるのかなぁ。

自嘲気味に心の中でつぶやいたところで、「こんばんは」と低い美声に呼ばれた。
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