謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?
もちろん、同情するつもりはない。
彼が顧客のお金を横領していたこと、しかもそれを自分の手を汚すんじゃなく部下の女の子の恋愛感情を利用してやらせてた、っていうのは事実なんだもの。
彼のスマホにその女の子とのやり取りが残ってて、観念した優はオンラインカジノで負けて巨額の借金があったことなどを告白、逮捕された。
もちろん銀行は懲戒解雇だ。
白井夫人はかなりショックを受けて憔悴しているようで、それに絆されたわけじゃないが、あたしに対する暴行については訴えを取り下げることにした。
藍が優のスマホを盗んだことも不問にしてもらったし、ご主人が責任をもって彼女を監督して二度とあたしたちには近寄らせないと約束してくれたしね。
お金もいずれ優に返させる、と言われたけど……他の女性や銀行の被害も含めると相当な額になるから、あまり期待しない方がいいかもしれない。
あたしとしては、このままお金が返ってこなくても仕方ないかな、と思ってる。
もう彼とは関わりたくないから。
というのも、いつだったか代々木付近で迷子になって、尾行されてるかもなんて怯えたことがあって。
あれ、実はほんとに優に尾行されてたんだよね。
キョウが、犯人が彼だったことを突き止めてくれた。
母親の方が上手く藍と接触できなくて、焦ってあたしに直接頼もうと思ったみたい。
ヨリを戻せば、何でもあたしが言うことを聞くだろう、って。
――加藤から聞いたけど、相馬って彼氏と別れたんだろ? 元カレがストーカー化したとか、そういう可能性は?
あの田所の言葉がまさかの真実だったなんて、びっくりしたなぁ。
そんなこともあって、優とこれ以上繋がりを持つのは、もうこりごりなんだよね。
藍も、同じようなことを言っていたから、たぶんお金のことはこっちからは請求しないと思う。
となると、あたしや藍の思いとしては、あたしたちから三千万、キョウに返したいところではあったんだけど……彼は絶対受け取らないって言ってて。
藍の作った野菜を定期的に分けてもらう、ってことで一応合意はしてる。
三千万には程遠いとはいえ、ね。
こういうのは気持ちが大事なんだ、というのがキョウの言い分。
「白井さんとの問題は解決しましたし、もう何のわだかまりもないですよ」
「じゃあ……あと、気になりそうなことと言えば」
会場内を見渡していた中里さんの視線がピタリと止まった。
「ははぁ、怒ってるんでしょう。京吾が実はニートじゃないって、ずっと自分だけ知らなかったから」
「あー……あはは、確かにショックでしたねそれは」