謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?
「ほんとに気にしないでください。こういう場所に慣れてなくて、ただ緊張してるだけなので」
できるだけ気安い調子で言いながら、そんなにテンション低く見えるのかな、と心配になる。
こんなおめでたい席で辛気臭いカオしてたら、迷惑よね。
ちょっと席を外して、外で気分転換でもしてきた方がいいかも?
ロビーのソファとか――
「わかった、マリッジブルーだ」
「え」
当たりでしょう、と言いたげに口の端を上げた中里さんが、あたしへと視線を合わせた。
「あなたの場合は、自分が彼に相応しいのかなぁとか、そんなこと考えてるんじゃないですか?」
「え」
わかりやすく言葉に詰まったあたしへ、相手の唇が何か言いたげに動いた時だった。
パッと一斉に会場の照明が消え、代わりにランウェイが白く眩しく照らし出された。
迫力ある音楽が始まり、みんなの視線が期待を込めてそちらへと集まっていく。
「あぁ、時間切れだ。ショーが始まる。僕は行きますが、どうか、絶対に、必ず、ここを動かないと約束してください。いいですか?」
「え? あ、は、はぁ」
あたしが圧力に押されるようにして頷くのを見届け、くるりと踵を返し去っていく中里さん。
そんなにショーを見てほしいのかな。
あたし一人いなくなったって、誰も気づかないだろうに、とは思ったものの。
もちろんショーは一番楽しみにしていたので、今抜け出すわけにはいかない。
小さく吐息をこぼしてから、視線をランウェイへと戻した瞬間。
わぁっ!!
大きな歓声が沸いた。
モデルさんたちが現れ、颯爽と歩き出したのだ。
後方の巨大なスクリーンへ、着用したジュエリーのプロモーション映像も映し出され、さらに会場のボルテージが上がっていく。
すごいなぁ……。
すべてがキラキラ輝いていて……
なんだか、別世界に迷い込んじゃったみたい。
――自分が彼に相応しいのかなぁとか、そんなこと考えてるんじゃないですか?
中里さんの言葉が脳裏に蘇り、胸の奥へツキンと痛みが走った。