謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?
いや、待って。お願いだから!
大いに焦って挙動不審になるあたしのことは、まるっとスルー。
2人は「今年のトレンドは」「普段から使えるものの方が」「この色は?」「これなら似合いそう」などと勝手に話を進めてしまう。
「――やっぱりこれかな。翠、ちょっと試着してみて」
「ちょ、ちょっとキョウ、待ってよ、あたしこんなのもらえないっ」
タグに値段が書いてないのよっ。
恐ろしい予感しかしないじゃないの!
押し付けられた服を震える手で返しながら言うと、キョウは目を丸くし、続けてぶぶっと可笑しそうに吹き出した。
「変わった女子だな、翠って。そんなこと未だかつて言われたことないぞ? みんな喜んで、なんなら自分からリクエストしてくるのに」
そりゃ、普通のセフレならありがたく受け取るのかもだけどっ!
「ででもっあたしは三千万の借りだってあるし」
「それはそれ、これはこれ。知ってるだろ、オレ、金に困ってないから」
ちょいちょーーい、さらっと言いすぎ!
「でも……」
そうでしょうけどね。それこそ、“それはそれ、これはこれ”じゃないの?
こちらの不満が伝わったのか、キョウは楽しそうに笑いながら、あたしの眉間のシワをぐりぐり指で伸ばしてくる。
「とにかく、翠が気にすることなんてない。ま、男が女性に服を贈る理由なんて、下心しかないに決まってるんだから。黙って受け取っておけばいいんだって」
最後の方は耳元に唇を寄せて囁かれて、ぶわっと顔が赤くなるのがわかった。
「くくっ、翠、耳まで赤くなってるぞ。かーわいー」
「ちょ、耳触らないでっ」
両手で耳をガードして、慌てて試着室へ逃げ込んだ。
カーテンの向こう側から、かみ殺した笑い声が聞こえる。
おかしい。
おかしい。
こんな風に揶揄われて簡単に動揺しちゃうなんて、全然あたしらしくない。
ほんっと、調子狂うわ。あいつといると!