謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?
「お、いいじゃんいいじゃん! すっごい似合ってる」
「ほんとに、よくお似合いですわぁ!」
試着室のカーテンを開けるなり、手放しで褒めてくれるキョウと店長さん。
「う、ん」とあたしも渋々頷いた。
彼が選んでくれたのは、春らしいレモンイエローのシャツワンピだ。
ハイウェストの切り返しから広がるフレアスカートで、脚長効果も抜群。悔しいことに、自前の服より断然似合ってる。
お揃いの色のパンプスまで履けば、気分はどこかのご令嬢、って感じ。
ゲンキンにも舞い上がってしまう庶民な自分がカナシイ――なんて考えていると、背後に立つキョウと鏡越しに目が合った。
「あとは、ちょっとデコルテが寂しいか。フープピアスだけでもあれば、ショートカットには映えるよな……」
ブツブツ言ってまた耳に触れようとするから、慌てて避ける。
そして、「プレゼントはもう十分だからねっ?」と釘をさしておいた。
図星だったのか、キョウは少し残念そうに眉を下げたが、腕時計に目を落とすとため息交じりに頷いた。
「ま、時間もギリギリだし、今回は諦めるかな」
最後の方のつぶやきは、深くツッコまないことにしよう。
「じゃ、全部このまま身に着けて行きたいので、もともと着てた服と靴、袋にでもまとめてもらっていいですか」
「はい、ありがとうございます、ただいまご用意いたします~!」
ほくほく顔の店長さんに見送られて、あたしたちがお店を後にしたのは、わずか10分後のこと。
キョウは、支払いにカードを見せることすらしなかった。
よほど常連のお客ってことよね。
恋人やセフレの服、デートのたびにあそこで選んでる可能性もあるな。
それなら、この1着くらいもらっても、構わない……かも?
なんとか自分を納得させたあたしを再び助手席に乗せ、キョウは車を走らせる。
30分後、到着したのは森の中に建つ一軒家レストラン。
どうやらメイン目的の前に、食事を取るようだ。
もちろんこちらも、セレブ御用達という雰囲気の高級感が漂っているし、食事を楽しむゲストたちはみんな、パーティーでも行けそうなくらい着飾っている。これがドレスコード、というヤツらしい。
支配人らしきスタッフに店内を通って奥へと案内されながら、服を変えてよかった、とこっそり冷や汗を拭うあたしだった。