謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?
「へぇ、そんないろんな種類の広告作ってるんだ。楽しそうだな」
「そうね。やりがいはあると思う。でも締め切り前は地獄よ? クライアントも代理店も、好き放題言ってくれちゃうし」
古い洋館を大胆にリノベーションしたらしいモダンな個室、窓の向こうの庭にはライトアップされた見事な夜桜。
供されるのはフレンチの要素を取り入れた、見た目にも華やかな創作和食……。
「最近はやっぱりウェブ広告の方が主流?」
「うん、それは間違いないわね。あたし的には、紙の雑誌も好きなんだけど」
「わかる気がする、その気持ち」
優との記念日デートだってこんな高級な所来たことなくて、ヘマしたらどうしようって最初は心臓バクバクだったけど。
幸い、ファッション全般に詳しいらしいキョウが、あたしの作った紳士服の雑誌広告を覚えててくれて。
そこからごく自然に、仕事のことを中心に話を振って会話をリードしてくれるおかげで、段々緊張も解れてきたかな。
和牛のステーキをメインに、旬の野菜を取り入れた料理はどれも煩悩が吹っ飛ぶほど美味だったしね。
ただ……疑問なのは、ヤるだけの女にどうしてこんなお金をかけるんだろう、ってこと。
彼にとってはいつも通り、なのかしら。
「――って、ごめんね。なんかあたしばっかりペラペラしゃべっちゃって。つまらないでしょ?」
「いや、全然。すごく面白い。オレ、会社勤めってしたことないからさ、そういうものなのかって、興味深いし」
んん?
会社勤め、したことない??
引っかかったあたしは、恐る恐る気になっていたことを聞くべく、口を開く。
「ええと、それってどういうこと? フリーランスで何か、仕事してるとか?」
「いや? 何もしてない」