謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?
「……って言ったら、どうする?」
抹茶のティラミスを口へ運びながら意味ありげに見つめてくる相手に、あたしはむっと顔をしかめた。
「そういう冗談いらないから。あたしは真剣に聞いてるの」
「真剣に、ねぇ?」
言いながら、皮肉っぽく片頬を上げるキョウ。
ほんと、何を考えてるかイマイチわからない人だ。
「まぁいっか。じゃあオレも真剣に、君が望む通り、答えようか」
「はい、お願いします」
「都合がよかったから」
「つ、都合?」
「そう。オレさ、モテるんだ。ものすごく」
おもむろにスプーンを置き、頬杖をついて重々しいため息をこぼすイケメン。
イヤミに聞こえないところがすごい。
そりゃそうでしょうね。
このルックスなら、例え無職のニートだろうが、女は群がってくるだろう。
「オレだって気持ちいいことは嫌いじゃないから、誘われればお相手してきたけどね。たった1回寝ただけで彼女面する女子の多いこと多いこと。中には婚約者気取りで実家に押しかけてくる子もいて。正直困ってたんだ」
「……へぇ、ソウデスカー」
いや、1人に絞りなさいよ。
何人食って来たんだ、こいつは。
「その点、君とオレの間にあるのは金のやり取りだけ。借金ていう負い目がある君なら、余計な期待はせずに、自分の分をわきまえてくれるんじゃないかって思ったわけ」
なるほど。
あたしなら、セフレ以上の関係を望むことはないから安心、ってことね?
うーん、想像通りのゲスい理由だわ。
けどなんか、みょ~に納得。
あたしは漏れそうになるため息をひた隠して「了解。わかったわ」と頷いてから、もう一つ確かめておきたかったことを口にする。
「ええと、じゃあ、この関係はいつまでってことにするの? キョウに好きな相手ができるまで? それとも、1回あたりいくら返済って具体的に決める?」
「あぁ期間か。うーん……オレが飽きるまで、かな?」
ひぃい~またまたサラッと言いやがったわ。
結構最低なこと!
……まぁいいか。
あたしとしても、好都合かもしれない。
彼が完璧な聖人君子だったら、三千万もの大金の対価に平凡な自分の身体を差し出すなんて、申し訳なくてできなかったかもしれないもの。
うんうん、よかったよかった。
これでよかったのよ。
なんとなく肩の荷を下ろした気持ちで、あたしは自分のティラミスに勢いよくスプーンを差し入れたのだった。