謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?
それが、1時間ほど前。
そして現在――あたしはさっきまでの余裕などどこへやら、ガクブルしながらバスローブ姿でソファにうずくまっている。
「じゃ、オレもシャワー浴びてくるから、ちょっと待ってて。このワイン、好きに飲んでていいから」
「はっいっ」
わ、声裏返っちゃった。
固まるあたしを、「なんだその声、可愛いな」って軽やかに笑ってから、くしゃっとあたしの頭をひと撫で。
それからキョウは、ダンスパーティーでもできそうな広さのリビングスペースを横切って、バスルームへと真っすぐ向かっていく。
さ、さすが……慣れてるわ。
セレブでイケメン、って最強。
長身のシルエットがドアの向こうへ完全に消えるのを確認してから、バスローブの前を掻き合わせて膝をきつく抱える。
見事に違いない夜景も――ここからじゃ遠すぎてわからないが――、極上の柔らかさに違いないキングサイズベッドにも、近づく気になれない。
今更だけど、緊張しちゃって。
だって、こんなラグジュアリーなホテルのスイートルームでスるなんて、聞いてない!
シェルリーズよ、シェルリーズ!
あたしでも知ってるわよ。
ここが七つ星とも言われる最高級ホテルだって。
こんなところで休憩2時間って、無理でしょ!?
時間単位とか、そういう使い方はできない所。
ということはつまり、お泊りよね。
いやいや、待って。一体いくらするのよ?
きっとお値段だってトップクラス。東京でトップクラスということは、世界基準から見てもトップオブトップということで……。
今更だけど、きっとあいつ、ラブホなんて使ったことないのね!?
くっそぅボンボンめ!
動揺を誤魔化すために、部屋に入るなり「お先に」ってバスルームへ逃げ込んでシャワーを浴びて、とっとと出てきたはいいけれど。
こんなゴージャスな場所で抱かれる女に相応しい容姿やテクニックが、自分にあるだろうか、って改めて怖くなってきちゃった。
しかも相手はルックスピラミッドの頂点に君臨できそうな美形。
クズニートとはいえ、数多の女を食い散らかしてきた、もしくは現在進行形で食い散らかしてる経験豊富な男なわけでしょ。
そんなヤツを、あたしが満足させられる?
三千万円もの大金の対価として?
優にだって、反応が薄すぎる、ってがっかりされたことあるくらいだもの。
だからいつも、一生懸命演技して……