謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?
猫なで声であたしを呼んで隣席に座ったのは、ゆるふわヘアがよく似合う、可愛い系女子。
制作部の同僚で編集兼ライターの、沢木奈央だ。
「何何? 彼氏に愛のメッセージでも送ってたのかなー? 残業でまだ帰れないよーって?」
「ちがーう、妹よ妹。奈央、そんなクネクネしなくていいから、ほら、とっとと寄越しなさい」
わざと怖い声で言って手を突き出す。
瞬く間に、「ははーーっ恐れ入りましたっ」と大げさにひれ伏した彼女が1枚の紙を差し出してきた――真っ赤なやつ。
さすがにひくっと口元が引きつった。
「……ちょいちょいちょーーーい、奈央さーん? このタイミングで、これは何かなー? 喧嘩売ってるのかしらぁああ?」
嫌味っぽく言ってやると、相手はバチンと勢いよく顔の前で両手を合わせた。
「ごめんなさいっ上の人から注文がついちゃったみたいで……翠だけが頼りなの! お願いします! 神様仏様翠様っ!!」
はぁ、とため息が漏れる。
仕方ない。
締め切り直前のクライアント修正は毎度の事だし、奈央のせいじゃないしね。
「はいはい、やりますよ。やらせていただきます」
「やった、翠大好きーっ!」
「はいはい。ほら、早く終わらせて人間の生活に戻るよ」
「ラジャー!」
敬礼した彼女から真っ赤っ赤な指示が入った紙を受け取ると、もう片方の手は首元のネックレスへ。
花びらモチーフの華奢なチャームをきゅっと握っていつも通り気合を入れ、マックの画面へ向かう。
妹から届いたメッセージのことは、すっかり頭から抜け落ちていた。