謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?

猫なで声であたしを呼んで隣席に座ったのは、ゆるふわヘアがよく似合う、可愛い系女子。
制作部の同僚で編集兼ライターの、沢木奈央(さわきなお)だ。
「何何? 彼氏に愛のメッセージでも送ってたのかなー? 残業でまだ帰れないよーって?」

「ちがーう、妹よ妹。奈央、そんなクネクネしなくていいから、ほら、とっとと寄越しなさい」

わざと怖い声で言って手を突き出す。
瞬く間に、「ははーーっ恐れ入りましたっ」と大げさにひれ伏した彼女が1枚の紙を差し出してきた――真っ赤なやつ。
さすがにひくっと口元が引きつった。

「……ちょいちょいちょーーーい、奈央さーん? このタイミングで、これは何かなー? 喧嘩売ってるのかしらぁああ?」

嫌味っぽく言ってやると、相手はバチンと勢いよく顔の前で両手を合わせた。

「ごめんなさいっ上の人から注文がついちゃったみたいで……翠だけが頼りなの! お願いします! 神様仏様翠様っ!!」

はぁ、とため息が漏れる。
仕方ない。

締め切り直前のクライアント修正は毎度の事だし、奈央(ライター)のせいじゃないしね。

「はいはい、やりますよ。やらせていただきます」

「やった、翠大好きーっ!」

「はいはい。ほら、早く終わらせて人間の生活に戻るよ」
「ラジャー!」

敬礼した彼女から真っ赤っ赤な指示が入った紙を受け取ると、もう片方の手は首元のネックレスへ。
花びらモチーフの華奢なチャームをきゅっと握っていつも通り気合を入れ、マック(相棒)の画面へ向かう。

()から届いたメッセージのことは、すっかり頭から抜け落ちていた。

< 4 / 246 >

この作品をシェア

pagetop