謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?
3. 2か月が過ぎました。
【今日締め切りの案件がいくつかあるから、ちょっと無理だと思う。ごめんなさい】
今夜会えないか、と聞いてきたキョウのメッセージに返事を送って、あたしは目の前の自販機のボタンを押した。
落ちてきた缶コーヒーを取り出し、社員の休憩用にと並べられた椅子の一つへ腰を下ろす。
目隠しとして置かれたグリーンの向こうからは、社内のざわめきが伝わってくる。
いつもと変わらない、何気ない日常の一コマ。
まるで、何も変わったことなどないかのような――
それらをぼんやり聞き流して、あたしはふぅっと天井を仰ぐ。
藍が失踪しキョウとの関係が始まってから、あっという間に2か月が経過。
長袖から半袖の季節へ、移り変わろうとしていた。
――妹さんの居場所は突き止めたから、心配しなくていい。あぁ東京にはもういなかった。ただ本人に帰る意思がなくて、今説得してるところだから、もう少し待って。
――強引に連れ戻しても、何も解決しない。また姿を消すのがオチだぞ。
なんて、キョウに言われて。
定期的に送ってるメッセージに既読がつくことを言い訳に静観してはいるものの、そろそろお盆の帰省はどうするのか、お母さんから聞かれる頃だしな。隠し通すのも段々苦しくなってきそう。
あんな大金を何に使ったのか、どうして未だに帰ってこないのか、理由も依然として不明だし。
せめて居場所を教えてもらって、あたしに説得させてくれればとも思うけど。
もろもろの手続き――藍のバイト先へ休職の交渉をしてくれたり、アパートの契約を更新したり――を全部キョウが手配してくれちゃった手前、無理も言えない。
それじゃなくても彼には三千万、っていう負い目があるし……。
三千万、かぁ。
缶を傾けてコーヒーを喉へ流し込みつつ、あたしはこの濃密すぎる2か月を振り返った。