謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?
「なっ」
とっさに返事に詰まるあたしへ、「あ、もちろん前から美人だけどね」と付け加えて、身を乗り出してくる奈央。
「最近はもう色気がすごいっていうか。同性のわたしでもドキドキしちゃうくらい、ふとした瞬間の表情が“女”なのよっ! だから白井さんとゴールインが近いのかなって思ってたのに、別れたって言うなら、きっと他の誰かがいるんだろうなって――当たりでしょ?」
い、色気っ??
どこにあるのよ、そんなもの!
ぶるぶる首を振り振り、否定しようと口を開きかけるが、強い目線でストップをかけられる。
「うんうん、とにかく今度、改めてじっくり話聞かせてもらうから。隠し事はナシで」
「う、うぅ……はい」
奈央ならいいかと渋々頷く一方で、「みんなには内緒にしてよ?」と念を押しておく。
どんな理由があれ、セフレというのはあまり外聞のいいものじゃない。
「了解。じゃあ今度、女子会しよ!」
「うん、わかった」
お店どこにする? 何が食べたい?
新しいお店開拓したいよねー。
いつも通りの他愛もない会話へシフトしつつ、一緒にフロアへ戻りかけて、つと手の中で震えるスマホに気づく。
表示してみると、【わかった】とたった一言だけ。
それが、今夜は会えないと伝えたこちらのメッセージに対する返事だと気づいて、微かに肩が落ちた。
あたしと会えなくても、キョウには他にいくらでも、呼べば来てくれる女の子がいるのよね。
だからこんなに、あっさり了承してしまえる。
今頃誰かに、“今夜会えない?”なんてメッセージを送ってるのかな。
今夜彼は、どんな女の子と、どんなふうに愛し合うんだろうか――
「相馬さん、ちょうどよかった。ちょっとここ、直してもらっていい? 急ぎで頼みたいんだけど」
「あ、はい。大丈夫です、今やりますね」
営業部の社員から修正原稿を受け取ったあたしは、強く頭をひと振り。
じわりと胸の奥に広がった不快感を追い払うようにして、足早に自席へと向かった。