謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?
結局入稿作業が全部終わったのは、22時過ぎだった。
やれやれとリラックスモードの同僚たちをしり目に、さっと荷物をまとめて「お疲れ様!」と席を立つ。
そして、返事も待たずに一目散に駅へと向かった。
途中で、先にメッセージなり電話連絡なり入れるべきだったと気づいたけど、もうここまで来たら、現地に行っちゃった方が早い。
汗を滲ませて走りつつ、あたし何やってるんだろうって、不思議でたまらない。
バカみたい。
あたしはお金で買われてるだけ。
借金を返し終わるまで、つまりキョウが飽きるまで、あたしたちはただそれだけの関係で。
……あぁ、だからだ。
あまりに早く彼があたしに飽きてしまったら、三千万の何割かは返さなきゃいけないもの。
キョウはいらないって言うかもしれないけど、あたしの気が済まない。
そうなったら困る。お金なんて用意できない。
それに、藍の居場所を知っているのは彼だけ。
これからもまだまだ、頼らなきゃならない。
彼とのセックスは思ったより、その、悪くないし、もろもろの事情を総合的に考えるとあたし側にデメリットはないのよ。
そうよ。
だからだ。
特別な意味なんてない。
胸の奥で微かに脈動する何かから無理やり意識を逸らすように独り言ちたところで、新宿駅、と大きく書かれた緑色の文字が見えてきた。