謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?
「ちょ、そんなにしっかり見ないで。がっかりするわよ? ひどいカオしてるから」
しかもメイク直してくるの忘れたし!
若干泣きそうになりながら目線をうろつかせると、何の嫌がらせか、キョウは「んー?」とますます凝視してきて――
「そうだなー。確かにひどい顔だ。肌艶もよくないし、クマもテカリもひどいし」
「う」
そこまではっきり言わなくても!
一応女子なんですけど!?
さすがにムッと抗議しかけたところで「けど」と、あたしの頭上へ大きな手が乗った。
「最後までやり切った、っていう充実感が溢れてるカオだ。オレが100年かかってもできないヤツだな。すごいと思う。お疲れ様」
自虐っぽい笑みとともに言いながら、くしゃりと優しく頭を撫でてくれる。
え、と……
わかりにくいけどもしかして、あたしのこと、褒めてくれた……?
ど、どうしよう。
なんか、嬉しい、かも。
柔らかな何かで胸がくすぐられたような心地がして、なんだか彼のことが直視できない。
自然にむにむにと緩んでしまう口元を、なんとかきっちり引き結ぼうと力を入れて。
そんな時だった。
つと笑いを収めたキョウが、「ところで、一つ残念なお知らせがある」と急に抑えめのトーンで口を開いたのだ。
「え、残念な?」
「そ。今夜手配してたホテル、ダブルブッキングで予約できてなかったんだ」
「だ、ダブルブッキング?」
今日もたぶんシェルリーズを予定してたのよね? いつもあそこだから。
あんな最高レベルのホテルでも、そんなことあるんだ。
あれ? 年間契約してるとか前に言ってなかったっけ……?
むむむ、と眉を寄せた表情が、次の一言で無になった。
「だから今日はここまで。わざわざ頑張って来てくれたのに、ごめんな。車で家まで送るから」
「え」
ここまでって、つまり、今夜はシないってこと?
胸の内へ、サッとひんやりしたものが過っていき――とっさに、別にシェルリーズじゃなくても、と言いかけたが、寸でのところで飲み込んだ。
やだな。あたしってば何を言おうとしてたのよ。
ラブホでいいから抱いてくれ、とでも?
そんなの、まるで……
後に続く言葉は、考えたくなかった。
考えちゃいけないような、気がして。