謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?
ラーメンのおかげでお腹も満たされ、あたしは彼の車で自分のマンションまで無事に帰り付いた。
「遅くまで残業して疲れただろ。あとはゆっくり休め。風呂に入ったまま寝るなよ?」
部屋の前まで送ってくれたキョウは、カバンを渡してくれながらおどけたようにウィンクして見せた。
ほんと、イケメンってどんな表情でもサマになって得だなあ。
「ふふ。気を付けるね。送ってくれてありがとう。ラーメンも、ご馳走様」
疲れてるのは本当なんだよね。
直近1週間の平均睡眠時間はせいぜい4時間程度。
締めきり前はいつもこんな感じだから慣れてるとは言え、そりゃ早く休んだ方がいいのはわかってる。
わかってる、のに……どうしてだろう。
“お茶でも飲んでいかない?”
そんな台詞が、さっきからずっと口の中に貼り付いてる。
鍵を開けたドアの前で、もたつく唇を噛み、彼をチラリと振り返る。
「………」
交差する視線――
ほら、言うなら今よ。
今しかないのに!
けど……迷惑だって思われたら?
彼だって早く休みたいかもしれない。
ラーメン食べてたせいで、さらに遅くなっちゃったもの。
ワガママ言っちゃいけない。
そう自分を納得させて唇をきつく引き結んだ、のだけど。
「……翠?」
不思議そうな声に呼ばれて、ハッとした。
いつの間にか、自分の手が彼の上着の裾を掴んでいることに気づいたから。
「ご、ごめんっ」