謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?

慌ただしくシャワーを浴び、Tシャツにスウェットというラフな格好に着替えてから、廊下の奥のドアを勢いよく開けた。

「お待たせっ……ごめん、先にコーヒーとか出せばよかったね」

インスタントしかないけど、と言いながら1DKの見慣れた部屋へ入って行く。
すると、コンパクトなラブソファに座ってスマホを弄っていたキョウがこちらを見て顔をしかめた。

「翠、髪まだ濡れてる。ちゃんと乾かしてないだろ」

えー乾かしたよ?
と首を傾げ、顎のあたりで跳ねる髪に触れてみれば、あれ、ほんとだ、まだ湿ってる。
「大丈夫よ。短いからすぐ乾くし」

「ダメだって。風邪ひいたらどうするんだ。ドライヤー貸して。乾かしてやるから」

「え、いいってそんな……」

時間がもったいないし、と断ろうとして――いや、それはさすがに肉食すぎるか、とこっそり赤面。

それに、彼氏に髪を乾かしてもらうっていうシチュエーションは確かに憧れる。
マンガとかドラマとか、よくあるやつよね。

急にドキドキしちゃいつつ、いそいそとドライヤーを持ってきて「お願いします」なんて差し出してしまうあたしも、大概普通の女子だってことだろう。

「ん。じゃあオレの前に座って」
「ははいっ」

ソファに座る彼の前、足の間へ膝を抱えて座ると、すぐにぶぉおおおっとドライヤーの音が後ろから聞こえてきた。

ふわりと髪をなぶっていく温風。
同時に、髪に彼の指先が触れるのがわかって、鼓動が騒いだ。

前から、キョウって指が長くて細くて綺麗だな、とは思ってたのよ。
爪の形もすごく整ってるし。

仕事上、男性の手タレ写真もよく目にする機会があるんだけれど、遜色ない感じ。

あの指が、今あたしの髪を梳き、頭皮を探っているんだと思ったら――

「っん」

ビクッと、肩が跳ねる。
彼の指先が首筋を掠めたからだ。

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