謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?
4. モヤモヤが加速してます。
「それってもう、恋よね」
ばっさり真正面から言われて、あたしのフォークからコントみたいにぼろっとパスタが落ちた。
発言したのは、奈央。
場所は、日比谷にあるイタリアンレストラン。
あの寝落ち事件から1週間ほどが過ぎた6月最初の土曜日、あたしたち2人は約束通り女子会ランチを楽しんでいた。
雑誌で掲載された場所のせいか、店内は同じような女性客で大賑わい。こっちの話は誰も聞いていないのを幸い、あたしはぽつりぽつりと、藍の失踪からキョウとの出会い、ここ2か月の展開までを説明したところだ。
「ここ、恋って、そんなまさか」
「だって、会えると嬉しくて、会えないと寂しくて、もっと一緒にいたいって思うわけでしょう。それが恋以外の何だっていうわけ?」
「……う。そ、それはそのぅ、ほら、藍のことがあって助けてくれて、この人がいなくなると困る、って本能的に頼っちゃってるんだと思う。それが、身体の関係が絡んだことで、ちょっと疑似恋愛的な感情に寄っちゃってる、みたいな」
それは、間違ってないと思う。
藍のことは、あたし一人じゃどうしたらいいかわからなかった。
颯爽と現れて助けてくれたキョウは、あたしにとってヒーローと言っていい。
しかも、ベッドの上では最高に素敵な恋人になってくれて、ね。
「それでも結局、彼にとってあたしは、どこまで行っても大勢いるセフレの一人だもん。こんな未来の見えない関係の人、好きになんてなれるわけないでしょ」
力説するあたしへ、「ふーん?」と奈央は気のない返事。
「けど、結婚はともかく、恋愛は条件でするものじゃないでしょう。ダメだとわかっていても、どうしようもなく惹かれちゃう。止められない。コントロールできない。そうじゃない?」
実感のこもった台詞に、ハッとした。
そりゃそうだ。リアルな実体験なのだから。
遠恋中の今カレと付き合うまで、紆余曲折あった彼女の。
そしてまさにあたし自身が、迷う奈央の背中を押した一人なのよね。
それを思い出したら何も言えなくなってしまい、揺らした視線を下へ向けてそっと唇を噛んだ。