謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?

それからあたしたちは、今年の新作や新店舗限定グッズを一通りチェックして楽しんだ後、お店を出た。

「じゃ、カメちゃんによろしく」
「うん、じゃあまた週明けに」

上気したカオで微笑む奈央に手を振って、タクシーへと乗り込む彼女を見送る。

あれこそ恋する乙女の顔よねぇ。

彼女はこれから空港へ彼氏を迎えに行く。
留学中の恋人が、一時帰国するんだって。

遠恋は大変そうではあるものの、複雑な因縁を乗り越えて結ばれた2人には強い絆が感じられるし、大丈夫よね。
彼が完全帰国したら結婚、ってことになるんだろう。


「結婚、か……あたしは、遠くなっちゃったなぁ」

再び歩き出しながら、ぼそっとつぶやく。

藍のこともだけど、優と別れたことも、まだ両親には話してない。

銀行勤めっていう安定感が気に入ったようで、いい人見つけたなって喜んでたもの。別れたこと知ったら、きっとうるさくいろいろ聞かれるだろうな。

藍が髪をピンクに染めた頃からお父さんもお母さんも彼女の結婚を早々に諦めたらしく、あたしにばかりせっついてくるのよね。
孫の顔を早く見せて安心させてくれって。

それに影響されたせいなのか、長女としての責任感か、結婚願望は人並みにあったあたし。
30になるまでにはなんとか、って思ってた。

でも……最近はなんだか、どうでもよくなっちゃった。
なんであんなに30歳にこだわってたんだろ? ただの数字なのに。

お年頃だからと無理やり相手を見繕っても、そんな関係続くはずがない。
本当に愛しいと、ずっと一緒にいたいと思える相手とじゃなきゃ……

心の中で言いながら視線を上へと上げ――梅雨間近とは思えないほど真っ青な空に浮かぶのは、端正なあの人の顔。
あたしをベッドへ優しく押し倒して見下ろす、彼の……

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