謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?
そっと、服の上から鎖骨を撫でる。
1週間前寝落ちしちゃった夜、キョウにアトをつけられた場所だ。もう消えてしまったけれど。
翌朝それを見つけた時、あたしは間違いなく喜んでいた。
彼のものだという証を刻まれて、嬉しいって……
――それってもう、恋よね。
……あぁダメだ、待って待って。
彼はダメってば!
ぎゅ、っとブラウスの胸元を握り締め、今にも駆け出しそうな気持ちへ懸命にブレーキをかける。
冷静に考えてよ。
彼はニートで、セフレがたくさんいて、謎だらけで、好きになったって辛いだけ。
そもそも、あたしの気持ちなんて全然関係ないの。
あたしは、三千万で買われた女。
彼はこの身体を気に入ってくれているだけ。
結ばれる可能性なんて、ゼロなんだから。
……大丈夫。
まだ、これは恋なんかじゃない。
まだ、今なら引き返せる。
芽生え始めたこの気持ちは、なかったことにしなければ。
蓋をして、意識の奥深くに埋めてしまわなければ。
心の中で強く繰り返したあたしは、迷いを振り切るように歩くスピードを上げていった。