謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?

そっと、服の上から鎖骨を撫でる。
1週間前寝落ちしちゃった夜、キョウにアトをつけられた場所だ。もう消えてしまったけれど。

翌朝それを見つけた時、あたしは間違いなく喜んでいた。
彼のものだという証を刻まれて、嬉しいって……

――それってもう、恋よね。

……あぁダメだ、待って待って。
彼はダメってば!

ぎゅ、っとブラウスの胸元を握り締め、今にも駆け出しそうな気持ちへ懸命にブレーキをかける。

冷静に考えてよ。
彼はニートで、セフレがたくさんいて、謎だらけで、好きになったって辛いだけ。

そもそも、あたしの気持ちなんて全然関係ないの。
あたしは、三千万で買われた女。
彼はこの身体を気に入ってくれているだけ。

結ばれる可能性なんて、ゼロなんだから。

……大丈夫。

まだ、これは恋なんかじゃない。
まだ、今なら引き返せる。

芽生え始めたこの気持ちは、なかったことにしなければ。
蓋をして、意識の奥深くに埋めてしまわなければ。

心の中で強く繰り返したあたしは、迷いを振り切るように歩くスピードを上げていった。

< 66 / 246 >

この作品をシェア

pagetop