謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?

その考えがどうやら甘かったらしいと気づくことになるのは、それからすぐ後。電車を乗り継いで彼女のアパートへたどり着き、安普請の外階段を2階目指して上っている時だった。

1段上がるごとに2階の廊下が見えてきて、眉間の皺が次第に深くなる。
見知らぬ男が一人、ドアの郵便受けに指を突っ込んで中を覗き込んでおり、そこが藍の部屋だと気づいたからだ。

「その部屋に何か用ですか?」

やっぱり物件探しは一緒にやるべきだった、と後悔しながら固い声を上げたあたしは、意識的にパンプスの足音を響かせて近づいていく。

「んぁ?」
身体を起こしてこちらを向いたのは、着崩したブラックスーツの男。
一見ホストのように見えなくもない。が、目つきが悪すぎる。
どっちかっていうと、ヤのつく職業に片足突っ込んでそうな雰囲気で、警察に連絡してから出直した方が、という考えが一瞬頭を過った。
次の彼の一言がなければ、確実にそうしていただろう。

「何? おたく、相馬藍の知り合い?」

男の口から飛び出した妹のフルネームに、ギョッとした。
泥棒とか、部屋を間違えたとか、そういうわけじゃなく、つまり藍を知ってる、ってことだよね?

「……姉、ですけど。あなたは?」

警戒しつつ、それでも一応姉だと名乗る。
たちまち、相手の細い目がニヤリと弧を描いた。

「へぇええ、姉貴がいたんだ。そりゃ助かるわ。ずーっと留守だから、どうしようかと思ってたんだ」
「どういう意味ですか?」

「ちょっくら一緒に来てくれよ。あいつに逃げられて、こっちは迷惑してるんだ」

逃げられて?
迷惑してる??

はぁ?
ちょ、ちょっと……藍、あんた一体何やらかしたのーっ!?

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