謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?


ざわっ……


周囲のざわめきをうっすら聞きながら、あれ、と首をひねる。
かかって、ない?

「おおお客様っ大丈夫ですか!? ただいま何か拭くものをっ」

「あぁ、平気ですよ」

パチッと目を開けた。
スタッフに応えたその涼やかな声音が誰のものか、気づいたから。

「キ、キョウッ!」

あたしが叫ぶと、壁のように目の前を塞いでいたその背中が振り返った。


「間一髪だったなー」

飄々と笑う彼の白シャツはびっしょりと茶色に濡れそぼっていて、おしゃれなループタイからはポタポタと雫がっっ。
うわぁあ最悪っ!

「ご、ごめっ大丈夫!?」
「ん。ホットじゃなくてラッキーだった」

まさかど真ん前で盾になってくれるなんて……
嬉しい、と一瞬でも思ってしまった自分を必死で意識の外へ押しやり、とりあえずハンカチを、とカバンへ手を伸ばした。

「ちょっと待って。今、何か拭くやつ……」

だが、その手を強制的に捕まれた。

「大丈夫だって。ここで拭くよりクリーニングに出した方が手っ取り早い。このままホテルに直行しよう。早く脱ぎたい」

最後の方は耳元で囁くように言って、意味ありげにウィンク。

反射的に頬が熱くなって――いやいや、気持ち悪いから早く脱ぎたい、って意味に決まってるじゃない。
何意識してんの。

コクコク頷いたあたしの手を、「よし、決まり」と満面の笑みのキョウが引く。

「あぁ、そこの彼女、このコーヒー代はそこの非常識ババアが払いますので。では」

「ばっ……!?」

目を白黒させて戦慄く白井夫人を尻目に、2人してぷぷっと吹き出して。
あたしはキョウと肩を並べ、さっさと店を後にした。

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