謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?
「いいなぁ。なんか最近毎日会ってない?」
「まま毎日は言いすぎよ。2~3日に1回、くらい?」
「それでも、前からは全然増えてるでしょう?」
うぅ、と気まずく押し黙ったあたしは、やがて仕方なく頷いた。
「ここ1か月、かな」
1か月前にあった出来事、と言えば白井夫人との遭遇。
あれからだ、週末以外の夜にも、キョウから会おうと連絡が入るようになったのは。
こっちとしては断われる立場じゃないし、仕事の都合がつけばできるだけOKするようにはしてるけど。
回数を重ねるごとに、激しさが増してるような……。
だいたい、ニートのくせに体力ありすぎなのよ。
昨夜だって何度も……最後の方はよく覚えてない。
もう無理だって、言っているのに聞いてくれなくて――
「彼の方も、とっくに本気になってるんじゃないの?」
は!?
ガバッと隣を見ると、意味ありげな視線とぶつかった。
「そのキスマーク、かなりの執着感じるよー?」
「ままままさか、単なる暇つぶしよ。無職だから時間を持て余してるんでしょきっと。じゃなきゃ、お気に入りのガールフレンドが彼氏を見つけて離れていったばかり、とか」
「ふぅうーん。そうかなぁ? あー会ってみたい! 今度絶対写真撮ってきてねっプリクラでもいいよ!」
「えぇーだからさ、レストランとホテル以外は基本行かないんだってば」
「デートに誘ってみればいいじゃない。水族館とか映画とか! 暇してるんなら、嫌とは言わないでしょ」
「や、そんなことしたらもうカップルだし」
「今だってすでにカップルだって。相手の事、もっと知ってみれば? 例えニートでも、クズ男じゃないならわたしも応援する――あ、着いた。あそこよあそこ!」
反論しようと開きかけた口を奈央の言葉で一旦閉じ、あたしは彼女が指した方向へ顔を向けた。
すると、その先にあったのはボロいとしか形容しようのない錆ついたプレハブ倉庫で……え、ここ?
「ほんとに住宅街のど真ん中にあるんだね。なんか、全然スタジオっぽくないけど……」
ここフェミール池袋は、資料によると確か第1から第4まであるかなり大規模な撮影スタジオ、らしい。
「初めて来る人は大抵そう言うよ。中はリノベーションされてて綺麗だから大丈夫。この外観はね、味があるって撮影に使われたりするから、わざと改修せずこのままにしてるんだって」
「へぇ……」
それでもなんとなく半信半疑のまま、あたしは奈央の後に続いた。