謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?
ふいに艶やかなバリトンが響き、おや、と全員で振り返れば、あたしと同年代くらいのスーツ姿の男性がスタジオの入口から入ってくるところだった。
キリッとクールな一重の双眸に、薄く整った唇……上品なうりざね顔が美しい。
身長や体格はキョウとほぼ同じくらいなのに、全く違うタイプの美形だ。
穏やかな中に自信があふれた佇まいは、サラリーマンというより古典芸能の演者といった雰囲気で、すぐにみんなの目が釘付けになる。
「中里さん! お早いご到着ですね」
驚いたような奈央の声で、あぁこの人が、と内心で頷く。
トワズの広報よね。中里篤史、だっけ。
トワズをたった数年で一躍有名ブランドに押し上げた立役者。
「えぇ、ちょうど仕事のキリがついたので、逃げてきちゃいました」
悪戯っぽく口元を綻ばせたその人が、あたしへと視線を移す。
「相馬翠さん、ですよね。お会いするのは初めてですが、スタッフクレジットでお名前だけは覚えてます。いつも素敵に仕上げていただいて、社内でも好評なんですよ。一度ご挨拶したいと思っていました」
目尻を下げて物柔らかに言いつつ、スマートな仕草で名刺入れを取り出す中里氏。
うーん、さすが広報。全方位にソツがない。
「こちらこそ、御社の広告に関われて光栄に思ってます。今日はよろしくお願いします」
こちらも急いで名刺入れを取り出す。
動きがぎこちないのは許してほしい。
だって名刺なんてめったに使わないから!
なんとか中里さんと名刺交換を終えたあたしは、その後宮本さんとも名刺を交換する。
そうこうするうちに、女性モデルさんとメイクさんが到着。
現場は一気にバタバタと慌ただしくなり、お仕事モードへ突入した。