謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?
その後平橋と名乗った男の車に乗せられ――ひと悶着あったものの、「警察に連絡されて困るのはあんたの妹の方だ」なんて言われて、渋々従ったのだ――約1時間後。
あたしは(たぶん)銀座辺りにあるクラブのソファに座っていた。
開店直後らしくまだそれほどお客の姿はないものの、店内のキラキラギラギラしたインテリアからして、高級クラブの部類だと思う。
その中でも、通常のフロアより階段を数段上がった場所にあるVIP仕様らしいエリアに通されたあたしが、今対峙しているのはこのお店のオーナー、黒沼という男だ。
「……つまり、妹は昼間の仕事の他に、夜はあなたのお店でバイトをしていた」
たった今聞かされた信じられないような話を必死で理解しようと努めつつ口にすると、恰幅のいい中年紳士、といった風貌の黒沼は鷹揚に頷いた。
「この店じゃないがね」
そう。
彼によると、藍は彼が経営するキャバクラで半年ほど前から働いていたらしい。
お金をたくさん稼ぎたいという理由で。
「それでもお金が足りないと言って、藍はたびたびお給料の前借をして、さらに黒沼さん個人からも借金をしていた。ところが催促してもなかなかお金を返さないため、別店舗への異動を打診した」
別店舗、とは、黒沼の言い方から察するに、もっとアンダーグラウンドなお店のようだ。手っ取り早く、身体で返せ、ってこと。
話しながら、気分が悪くなってくる。
この半年の間、あたしたちは何度も会ってるんだよ?
一緒に買い物に行ったり、ご飯を食べに行ったり……なのに藍からは、そんな話一度も聞いたことがない。
「そうだ。その途端店に来なくなり、連絡もつかなくなった」
それが1週間くらい前だと言われて、あたしはようやくあの奇妙なメッセージを思い出した――【ごめんね、お姉ちゃん。探さないでください】
ぐらりと視界が歪む心地がして、震えてしまう足をツルツル滑る床に押し付ける。
どうしてあの時、もっと真剣に受け止めなかったんだろう。
今思えば、絵文字やスタンプが1コもないなんて、全然あの子らしくなかったのに!
まさかあの子、お金が返せないからって、早まったことしてないでしょうね!?