謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?
「下痢!?」
「そうなんです。昨夜の食事がどうもよくなかったらしくて」
沈痛な面持ちで視線を落とす奈央。
彼女によると、今日予定していた男性モデルさんから、急な腹痛で欠席したい、と連絡が入ったのだという。
「サブで押さえてた人もいるんですけど……」
なんとその2人で一緒に食事に行き、2人ともダウンした、というプロにあるまじき事態になっているらしい。
「彼の事務所が代わりの人を探してくれるって言うんですが、見つかる保証はないのでこっちでも探します。先に撮れる分だけ撮り始めていただけますか?」
「女の子の方からってことだろ。僕の方は構わないよ。でも大丈夫かい?」
「あたしも知り合いに当たってみようか。ただ今日の今日で、スケジュール的に無理、ってなるかも。イメージに合う合わないとか、競合かぶりも考えると……」
高林さんや宮本さんに言われて、奈央は唇を噛んだ。
状況はかなり厳しい、ってことだろう。
中里さんも腕を組み、難しいカオをする。
「今回はメンズラインのお披露目ということで、いろいろ注文をつけさせていただいたんですよね。宝飾関係だけじゃなく、できるだけ他業界のお仕事もされてなくて手垢のついていない、できれば新人の方。年はアラサーくらいで、ジュエリーをつけこなす余裕を演じられる方。散々無理を言って、沢木さんにはようやく探していただいたんですが……残念ですね」
アラサーの新人モデルか。
それは確かに、条件的にかなり難しそう。
「見つからなければ、メンズだけ別日にするしかないですね……」
和気あいあいという雰囲気から一転、お通夜のような空気になってしまったスタジオ。
残念ながらあたしにできることは何もなく。
ただハラハラして見守るしかない。
「いっそのこと、イケメンの素人を連れてくるっていうのは?」
「大抵のアラサー男子は、平日の昼間は仕事してますよ」
宮本さんと奈央の会話が聞こえてくる。