謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?
写真の1枚もなく、キョウの美形っぷりを説明するのはとても難しかったのだけど、幸い中里さんが興味を持ってくれ、なんとか彼の到着を待ってみよう、という方向へ話を持って行くことができた。
他のモデルさんに声をかけた結果が芳しくなかった、ということもあるかな。やっぱり当日ブッキングは無理があったみたい。
もし彼が中里さんのお眼鏡にかなわなかったり、諸々の条件が合わなかった場合は、別の日に従来のモデルさんで再撮、ということに決まった。
その後はすぐ、レディースアイテムを先行して撮影開始。
高林さんや宮本さんのお手伝いをしながらそれを見学していると、しばらくしてミュートにしたスマホがポケットの中で震え出した。
確認すれば、車はどこに停めればいいのか、とキョウからのメッセージ。
もう到着したらしい。
よかった、ちゃんと来てくれた、とまずは胸を撫でおろす。
【スタジオ前の駐車場、空いてるところに停めて。どこでもいいから】
返信したあたしは、「キョウを迎えに行ってきます」とメンバーへ断りを入れて部屋から飛び出した。
外へ出ると、今まさに真っ赤なフェラーリがスルスルとバック駐車するところ。
やがて運転席側のドアが開き、デニムに包まれた長い足に続いてその全身が現れる。
「キョウ!」
視線を巡らせて入口に立つあたしを認めた彼の眦が、ふわりと柔らかく緩む。
「翠」
そういえばこういう彼の表情、最近よく見るような気がする。
まるでベッドの中で恋人を甘やかすような、カオ――瞬間、胸が微かな音を立てて軋んだ気がして、ドキッとした。
やだ、何トキめいてるの。
昨夜会ったばかりなのに。
ほ、ほんとイケメンって罪だわー。
心の中で言い訳しながら火照った頬を軽く叩いて、キョウを出迎える。
「ごめんね、ゆっくりしてたところに無理言っちゃって」
「いや別に。どうせ暇だし。けど知らなかったな。こんな住宅街のど真ん中に撮影スタジオがあったなんて」
「あたしも今日初めて来てね、びっくりしちゃった。あ、狭いから気を付けてね」
ドアから彼を誘導し、椅子やテーブル、パーテーションなど、撮影に使うらしい雑多なものが片側に積み上がった細長い廊下を一緒に進む。