謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?

「トワズの広報、中里さんっていうんだけどね、まずは彼と会ってもらって、彼がOK出せば撮影って感じ。心配しないで。すごく優しくて気さくな人なの。緊張しなくていいから。それに結構イケメンでね。そのままモデルになってもいいんじゃないかって思うくらい――」

話しながら、第1スタジオと書かれたドアを開けようと手を伸ばした。
が、ノブは掴めなかった。

後ろから腰を引かれ、1歩2歩と後退させられ、積み上がった椅子の山に身体を押し付けられたから。

「……き、キョウ?」

「モデル料は?」

かがみこんできた彼に唇が触れそうなくらいの距離で言われて、「なっ」てフリーズ。
「まずは手付金ってことで、前払いしてもらわないとなぁ」

その双眸がキラリと意味深に輝くのを認め、訳も分からず鼓動が妖しく騒ぎ出してしまう。

「てて手付金、って……」
「とりあえずキスで我慢しとくから。ほら、して?」

なななんで突然そんなこと言い出すかな、こいつはっ。
ドアの向こうにみんなが待ってるっていうのに!

動揺を隠せず、数歩先のドアと彼とをおろおろ交互に見やるあたし。

「モデル、やってほしいんだろう? それとも、このまま帰っていい?」

降ってくる余裕の笑みを、ムカムカしながら見上げる。
それ、脅迫じゃないっ。

はいはい、わかってた。そーゆーヤツ!
こうやってイジメて、相手が困るのを見て楽しんでるんだわ。

「ひ、卑怯よっ。キスなら昨夜も散々したでしょう?」
「昨夜は昨夜。帰ってからすぐ、翠にキスしたくなって困った。最近、翠不足が深刻なんだ」
「あたしはビタミンかっ」

誰かが出てきたらどうしようと焦ってきたあたしは、彼の意味不明な台詞を聞き流して腹をくくる。
キスで済むなら、さくっと終わらせよう。

< 88 / 246 >

この作品をシェア

pagetop