謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?
「トワズの広報、中里さんっていうんだけどね、まずは彼と会ってもらって、彼がOK出せば撮影って感じ。心配しないで。すごく優しくて気さくな人なの。緊張しなくていいから。それに結構イケメンでね。そのままモデルになってもいいんじゃないかって思うくらい――」
話しながら、第1スタジオと書かれたドアを開けようと手を伸ばした。
が、ノブは掴めなかった。
後ろから腰を引かれ、1歩2歩と後退させられ、積み上がった椅子の山に身体を押し付けられたから。
「……き、キョウ?」
「モデル料は?」
かがみこんできた彼に唇が触れそうなくらいの距離で言われて、「なっ」てフリーズ。
「まずは手付金ってことで、前払いしてもらわないとなぁ」
その双眸がキラリと意味深に輝くのを認め、訳も分からず鼓動が妖しく騒ぎ出してしまう。
「てて手付金、って……」
「とりあえずキスで我慢しとくから。ほら、して?」
なななんで突然そんなこと言い出すかな、こいつはっ。
ドアの向こうにみんなが待ってるっていうのに!
動揺を隠せず、数歩先のドアと彼とをおろおろ交互に見やるあたし。
「モデル、やってほしいんだろう? それとも、このまま帰っていい?」
降ってくる余裕の笑みを、ムカムカしながら見上げる。
それ、脅迫じゃないっ。
はいはい、わかってた。そーゆーヤツ!
こうやってイジメて、相手が困るのを見て楽しんでるんだわ。
「ひ、卑怯よっ。キスなら昨夜も散々したでしょう?」
「昨夜は昨夜。帰ってからすぐ、翠にキスしたくなって困った。最近、翠不足が深刻なんだ」
「あたしはビタミンかっ」
誰かが出てきたらどうしようと焦ってきたあたしは、彼の意味不明な台詞を聞き流して腹をくくる。
キスで済むなら、さくっと終わらせよう。