謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?
早く、早く、止めさせなきゃ。
早くっ……
ところが細身のくせにその身体はビクともしない上、積まれた家具が背中にあたり後ずさることもできない。
結果、キョウのいいように翻弄され、キスだけが濃く深くなっていく。
そんな絶体絶命のピンチなくせに、身体の奥が反応して疼き出しているからさらに始末が悪い。
うぅ、もうどうしよう――……
「翠~? キョウさん着いた?」
脳裏が真っ白に塗りつぶされていくのと、近づいてくる足音で甘美な空気が霧散するのは、ほぼ同時だった。
パッとキョウの手が離れ、あたしは後ろの椅子に寄り掛かるようにして乱れまくった呼吸を整える。たた助かった……。
「うん! い、今いくっ!」
足に力を入れて懸命に身体を支えるものの、なかなか感覚が戻らない。
「ぷっ……小鹿みたいだな。抱いていってやろうか」
なんでそんな楽しそうなの!?
誰のせいだと思ってるのよーばかーっ!
心の中で叫びながら気力で立ち上がり、脇に放置されていたくすんだ鏡でぱぱっと顔を確認。
よし、口紅は大分落ちたけど、もともとそれほど濃い色じゃないしわからないだろう。
「い、行くわよっ」
肩をいからせてぷんすか歩くあたしの後ろから、「ぶくくっ」と笑いを噛み殺すキョウが続き、あたしたちはようやくスタジオへ入って行った。