謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?

あたしはコホン、と咳払いして仕切り直す。

「キョウが喜んでくれるようなモデル料、あたしなりに考えた結果よ。いつも家に籠ってばかりじゃなくて、外に出かけてみるのも楽しそうじゃない?」

――金なんていらないって。んー翠次第だな。翠がオレの事一晩中たっぷり楽しませて、悦ばせてくれるなら、それでチャラにしてやるよ。

――わ、かった。キョウが喜ぶこと、考えてみるね。


「モデル料……そうきたか」
交わした会話を思い出したのか、キョウは額に手を当てて肩を落とした。
漂う失望感には気づかないふりで、あたしは続ける。

「トワズの撮影ではほんとにお世話になったし、先方もすごく喜んでたしね。これでモデル料の代わりになるかどうかわからないけど」

掲載誌の発売まではあと少しあるが、中里さんの話ではすでに社内で話題沸騰中だとか。社長にも褒められました、とご機嫌の彼からわざわざあたし宛てに連絡が来たのはつい昨日のことだ。

もし、もしもよ?
これがきっかけでSNSで火が付くとかして彼がモデルデビューしちゃったら……いや、もちろんそうなったら素敵だなとは思うわよ? やっぱりニートより、社会に出て人と関わった方がいいもんね。いくら働く必要がないって言ったって。

ただ……そうなったらきっと、あたしたちの関係は終わるだろうな。
華やかな芸能界には超絶美女がごまんといるだろうし、あたしのことなんてすぐ飽きちゃうだろうから。

そんな切ない想いで見つめていたら、「もしかして」と浴衣へ手を伸ばしたキョウが、興味深そうにそれを引っ張ったり裏返したりして聞いてくる。

「ここしばらく誘っても乗ってこなかったのは、これの準備があったから?」

「あー……うん、実はそうなの。びっくりさせようと思って! 着付け、ユーチューブ見て勉強したり」
「へぇ、すごいな。ありがとう」

肩越しに振りむいた彼の顔は純粋な喜びに満ちていて、チクリと罪悪感に胸が痛んだ。

絶対言えないよ。
ほんとは、わざと会うのを避けてた、なんて。

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