謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?

試行錯誤の末ようやくカッコよく帯もキマり、浴衣が随分気に入ったらしいご機嫌なキョウと連れ立って、電車で会場へ向かう。

なんと彼、浴衣を着るのはもちろん、日本でお祭りの類へ行くのも初めてなんだって。
子どもの頃は海外暮らしで、滅多に帰国しなかったせい、だそうだ。
「リオのカーニバルなら行ったことあるけど」とか言われて、「へぇ」って遠い目になっちゃった。そうだった、こいつセレブだったわ。

とはいえ、あたしだってめちゃくちゃ久しぶりだ。
優が人込み苦手な人で、誘ってもことごとく却下されてきたから。

藍がまだ実家で暮らしてた頃、東京へ遊びに来て連れて行って……そのくらいかなぁ。

あの時も、あたしが着つけてあげたのよね。藍がどうしても浴衣着たいっていうから、やり方勉強して――そんなことを話しているうちに、会場の最寄り駅に着いていた。

車を使わなかったのは、浴衣じゃ運転しづらい上、きっと今夜は会場周辺の駐車場がどこもいっぱいになるだろうと思ったから。
その予想は正解だったようで、駅の改札を出ると、まだ明るいうちからたくさんの人でごった返している。

「うわ、すごい人ね」

先に屋台の食べ歩きで腹ごしらえを、思ったのに、たどり着くのも大変そう。
梅雨が明けて無事に晴れたのはラッキーだったけど、その分暑いし――

「ほら、翠」

「ん? えっ?」

うんざりと考えていた思考が、一時停止する。
目線を下げると、当たり前のように差し出されたキョウの手があった。

「はぐれたら大変だろう?」

まさか……手、繋ぐつもり?

「え、と。大丈夫よ? 子どもじゃないし。はぐれても、最悪スマホで連絡取り合えばいいんだし」

可愛くない言い訳を並べて、なんとかこれ以上の接触は避けようとしたのに、ダメだった。
伸びてきた手に、無理やり掴まれてしまう。

「何言ってんだよ。デートなんだから、繋がないとだろ?」

こちらの狼狽を知ってか知らずか、不満そうな台詞と同時に強引に指先が絡んできて、あ、っと思った時には恋人繋ぎになっていた。

デート?
ねぇ、これって、デートなの?

だって、あたしたちは身体だけの関係でしょ?
恋人面されるの嫌いないんじゃ……。

「ほら、止まったら邪魔」
「う、うん」

促されて歩き出しながら、密かに呼吸を整える。

あぁダメだ。
この程度で舞い上がって、自惚れてしまいそうなチョロい自分が嫌になる。

キョウの特別な一人になんか、なれるわけないのに……。

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