異世界でイケメンを引き上げた!〜突然現れた扉の先には異世界(船)が! 船には私一人だけ、そして海のど真ん中! 果たして生き延びられるのか!

◇18 心臓バクバク

 今、私達は海底にいる。防衛システム発動中の為、魚は取れないし、海水も汲めない。

 だから、あんなに準備していた豆腐が作れないのだ。

 でもその代わりに……


「なぁ、それなんだ?」

「ソイラテ。大豆を絞って作った豆乳にインスタントコーヒーを混ぜたの」


 あ、そうそう。インスタントコーヒー栽培できたの。飲み物って言ったらウチにはインスタントコーヒーが出てくるわけで。だから埋めてみたのよ。


「大豆?」

「飲む?」

「じゃあ一口だけ」


 甲板の芝生に座る私からマグカップを受け取ったヴィンス。

 マグカップに入ってるソイラテを一口飲んだけど、あれ? と言いたそうな顔をしてる。大豆、食べた事なかったからかな。原材料で使われてる調味料とかは食べた事あるけれど。

 こっちの世界での豆ってどんなのか分からないけれど、きっと味が違うから驚いてるのかな。


「美味いな、これ」

「作ってあげよっか」

「いや、いい。今度また作る時俺のも作ってくれ」

「うん、分かった」

「あとこれ半分くれ」

「えっ!?」


 ごくごく飲んじゃった。えっ、私の分は!? さっき一口だけって言ったよね!! 自分で言ったよね!!

 ニヤニヤしつつ、私の座ってる隣に腰を下ろして。


「嘘つき」

「何が?」

「分かっててやってるでしょ」

「あははっ、ごめんって」


 絶対許さないぞ。そう言い返したかったんだけど……口をあんぐりしてしまった。

 船の外側。防衛システムのバリアより外側を見たら……いたのだ、変な生物が。


「う、わ……」

「見たの初めてか」

「いやいやいや、海底に入った事すら初めてだからね!! え、こいつ強いの!? 大丈夫!?」

「嵐でも渦潮でも破れなかった防衛システムだぜ?」

「……」


 いや、そりゃそうなんだけどさ。何よあのクジラみたいなやつ。しかも立派な鋭い角まで付いてるし!! 槍みたいなんですけど!! あれに刺されたらひとたまりもないでしょ!! それか丸呑みでも無理だって!!

 はぁ、異世界って楽しいだとか何だとかって思ってたけど、恐ろしくもあったわ。こりゃ無理だって。

 じゃあ、ここにいる間は魔獣のいる水族館(?)で生活しなくちゃいけないの!? うわぁ、怖い怖い怖い。


「何、ビビってんの?」

「いっいや? ビビってないし?」

「ぷっ」

「あっ!」

「分かりやすすぎ、やっぱ面白いな、ナオは」

「勝手に面白がらないでくださいませんか」

「いや無理」


 ひっどい! 即答しないでよ!!


「あはは、悪かったって。じゃあこれで許してよ」


 なんて言いつつ、私に渡してきた。それは、小さな箱。何かラッピングされてません?

 開けていい? と言ってリボンを解いてみたら……青色のリボンだった。


「なんか、ナオってこういうの使わないだろ。折角綺麗な髪なのにさ」

「……」

「……あ、嫌だった?」

「あ、いや、その……結構びっくりしてて……私に?」

「そうだけど」

「……」


 とっても綺麗なリボン。

 ヤバイ、プレゼントなんて最近全然貰わなかったし、しかも最後には綺麗な髪ですって? いやいやいや、何よこの女ったらしは。女の口説き文句を熟知してません?


「……あり、がと」

「うん、じゃあ向こう向いて」

「えっ」

「結ってやるから」

「ヴィンスが!?」

「何だよ、俺こう見えて手先器用なんだからな?」


 それはよく知ってますけど!! そうじゃなくて!!

 けど、肩を掴まれてそっちを向かされてしまって。どっくんどっくん心臓は鳴りまくり。高い位置でポニーテールにしてる髪に……あぁぁぁぁヴィンス触ってきたぁぁぁぁ!!

 やばい、心臓の音どんどん大きくなってきてるんですけど!!


「ぷっ、くくっ……」

「っ!?」

「あははっ、心臓の音やばっ!」

「うっうるさいっ!!」

「何、緊張した?」

「髪触られるの苦手なの!!」

「ほんとにそれだけ?」

「っ……」


 言い返したいけど、言い返せず、ただ顔がどんどん熱くなってくだけで。やばい、これじゃあヴィンスの思うつぼだ。

 きゅっとリボンをしばる音がして。ヴィンスが手を離したのが分かった、けど……


「何、これは期待しちゃっていい感じ?」

「……遊ばないで」

「遊んでないって」


 え、後ろから、抱き締められちゃってる……? え、ど、どうしたら、いい、の……!?


「俺さぁ、恩返しとかって言ってここにいるだろ? でも……ナオと離れたくないってのが本音」

「へっ……」

「俺とずっと、一緒にいてくれないか?」

「……」

「クルーとしてじゃなくてさ」


 こ、れは……私、どうしたら、いい……?

 で、でも、私の好みドンピシャイケメンのヴィンスさんに、そんな事言われたら……


「……ハイ」


 こ、こ、断れないじゃないぃぃ~!


「やった、じゃあずっと一緒な」


 イケメンスマイル、眩しすぎる……

 死にそう……



「フ”ォ”ォ”ォ”ォ”ォ”ォ”ォ”ォ”ォ”ォ”ォ”ォ”ォ”ォ”ォ”ォ”~!!」



 そしていきなりの、魔獣の鳴き声。

 マジでビビった。

 けど、そのお陰か何だか知らないけど、冷静さをちょっとだけ取り戻せたかもしれない。


「……あれ、倒せる?」

「いや、流石の俺でも無理だって」

「優秀な傭兵(ようへい)さんなのに?」

「そもそも剣ないし」

「スコップならあるよ」

「いや無理だって。鶏ならまだしも」

「……あははっ」

「ぷっ、ははっ」


 これからどうなる事やらと不安ではあったのだけど、何かいつも通り楽しくいけそうな、そんな予感がした。

 まぁ、今までヴィンスと一緒にいたし、結構楽しかったし。

 困った時のヴィンス様だしな。うん、いつもありがとうございます。
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